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..-‐''" ̄ ̄ ̄'''' ー 、 ,...< 、 、`\ / ` i ヽ ヽ ヽ、 ./ { ハ ! ハ ハ ヽ ハ / i i i { ハ i ハ ハ、. | ! i i i l、 .ハ ト、 i }i .i i { .ハ.i i {、ゝ、 ハ /,人 } iリ l| i ハ l ムヾ`iー. ヾ ハ ;ィ=-,ハ jll j リ ./ | i ハ | .ム ,ィ灯沁,`ノ/ .ヒソ〃 ,'ク〃}、 / ノ i ム i ム ゞ斗 ′ 、`´彡´/ィ/ノ ヘ / / i y i ムu , 、 .// ./´ ヘ、 `ー-- 、 / / / } 丿 } ,ト ._ ¨ ,// 〃 / ヽ、\ ムハ / / l/ / _ノ`ー≧ ‐匕{ ( ハ/ ∧ } / / / _彡´彡三ミlムl工l ミハ ヽ;;_ } / / / // / / //ム‐^´, =ヾ''ミ{水}彡ミゝ、l /, 、. / ∩r 、 / /,' / ,-‐′ ////./ `,-ヤー、--、/.ハ l { .ヽ\ | l || { l.i/ / ノ/////./., { / { ヽ,Vi ヽ///∨ ハ . \\ノ !}| {_/ / ゝし ‐ X // .{ ..ヽ{. ヘ、 | ゝ、 ∨i }`ー ∨ r――へ. ヽ l' /―- .、 / ./ V ハ. ゙''ーく`キへ ヘl',__〉J}、 \  ̄ ̄} .ノ \ / / ,仆 、__,, 丿 } .ハ ''"`ー≧t ∨i、、 \ _{ ./‐ - 、_. 、 ヽ / / / | ///// / | , i .∨i、、 ノ了│ / \ } | ./ ,イ { / ! .//,/ / .| |. i .∨i、ー´ { ヽ__/ \ \ _ノ { { i |〃' i // / .', / .〃 i .i.∨i、 `ー彳ヘ ヽ ∧ j ∧ | ゝ,' / / Y ./ i | .i( ) ....‐´ ヽ i ヽ ヽ、 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━File.031 【ルイズ・F・ヴァリエール】 ━[データ] .━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━<タイプ> エスパー <分類>まほうつかいポケモン<特性> シンクロ(状態異常になると、相手を同じ状態異常にする) マルチスケイル(HPが満タンのとき相手の攻撃を半減する)(進化前の特性)━[種族値] . ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━<HP> ? <こうげき> ? <ぼうぎょ> ?<とくこう> ? <とくぼう> ? <すばやさ> ?(スバルが抜いたのでB以下) 【合計】 ?━[わざ] . ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ・リフレクター ・アポート アポート /特殊/エスパー/威力70/命中100/一体/攻撃後、控えと交代する。━[ポケパワー] . ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ・減衰障壁 … 攻撃の威力か威力上昇を減衰させる能力?(詳細不明) ・緊急テレポート … テレポートの威力を0にすることにより、好きなタイミングで使用することが出来る。(回数制限あり) ・瞬間同期 … 攻撃以外で受けたダメージを相手にも与える。(回数制限あり)━[解説] . ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ルイズが進化した姿。特殊攻撃が使えないという弱点を克服している。努力するトレーナーのみがこの姿に進化させられると言われており、本人もとても努力家。それでいて性格は素直ではなく、プライドが高い。しかし仲良くなると良き友となってくれるだろう。━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 弱点 2倍 むし・ゴースト・あく耐性 1/2 かくとう・エスパー
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前ページ次ページ確率世界のヴァリエール 確率世界のヴァリエール - Cats in a Box - 第一話 永遠にひとしいまどろみの中で、また、繰り返す。 他者と己との境目の無い世界、暗赤色の肉の檻の中で。 (少佐のうそつき、、、) ヴァルハラで会おうと言ったのに。 みんなで殺したり殺されたりしようと言ったのに。 言ってくれたのに。 あの人は、望みどおりの死を迎えることができたのだろうか。 死ぬためだけに歩き続けた、人でなしの戦争狂<ウォーモンガー>。 あの人は、この世の地獄の何もかもを引き連れて 修羅の地獄へと下ることができたのだろうか。 ヴァルハラへと。 じわり、と視野が赤く染まってゆく。 ああ、彼がまた、暴れているのか。 あの狂王が。 全存在を賭して少佐と戦い、そして敗れた 少佐と同類、戦争狂の人でなし。 この『死の河』のあるじ。 神を愛するあまりに神を憎み、 人に憧れるあまりに人に殺されることを望んだ あの哀れな不死の王<ノーライフキング>が。 現世に在ることを許されず。 地獄へ下ることも叶わずに。 今やただの虚数の塊、 この『死の河』ごと、虚無そのものと成り果てて、なお。 おのれが仕えるべき主の下へと。 不意に、視界がまばゆく輝き始めた。 その光に照らされて、思考の霧が晴れてゆく。 (、、、鏡、?) すべてがただ赤黒いこの世界で、神々しく輝く光の渦。 すべてが曖昧だったこの『死の河』の中で その光は、自分だけをはっきりと照らし出した。 思わず、その光へと手を伸ばす。 今やきっぱりと、境目の無い世界から分かたれた自らの手を。 そして、世界は反転した。 。。 ゚○゚ (ここ、は、、、?) まばゆい光に目が慣れてくる。 草原、青空。 遠く連なる山脈。 「外、に、、出れた?」 見知らぬ石造りの建物、見知らぬ服装の子供たち。 どこだろう? どこでもいい! 「うわ、やたっ、スゴイや、外だっっ!!」 外だ! 外だ!! 外の世界だ!!! 喜びに全身の毛が逆立っていく。 両手と一緒に耳を高々と上げて伸びをする。 「喜んでる所悪いんだけど、あんた、、、誰?」 振り返ると、同じくらいの背丈の少女がこちらを睨んでいる。 薄桃色の髪が風に流れる。 「ルイズ、『サモン・サーヴァント』で平民を呼び出してどうするの?」 「さすがはゼロのルイズだ!」 「この歩く爆発オチ!」 「うるさい! ちょ、ちょっと間違っただけよ! って、耳?」 ピコピコと頭の上で揺れるその猫の耳に気づいたとたん、 それまで後ろで陽気にヤジを飛ばしていた少年たちがざわざわとトーンを落とす。 「平民、、、じゃない、、、? 亜人なの? あんた」 不思議そうな声で桃髪の少女が問いかける。 「お姉さん、だあれ?」 「訊いてるのはこっちでしょ! まあ良いわ、よっくお聞きなさい。 私は使い魔であるあんたを呼び出したあんたのご主人様、 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ!」 先ほどのいらだった表情とはうって変わって 右手の小さな杖をひゅんと払い、胸を張り得意顔で名乗りを上げる。 「呼び出した、、、って、君が僕を助け出してくれたの?」 「? え、ええ、まあそうよ。 感謝なさい!」 「すごいやルイズ!ありがとう!!」 叫んで目の前の少女に抱きつく。 公衆の面前で押し倒されたルイズは目を白黒させながらも 胸元で嬉しそうにピコピコ動く猫耳頭を押しのけようともがく。 「ナッニッ、いきなり呼び捨てにしてんのよ! ご主人様って呼びなさいこのバカ猫! って、い、う、かっ、抱きつくなあぁ!!」 「ハアハア、大体あんたどっから来たのよ。 東方とか?」 「え? うーん。 『死の河』?」 「な、何よ、その怖そうな地名」 露骨に嫌な顔をして体を遠ざける。 「いや、地名じゃなくって~、そーいう吸血鬼」 「きゅっ、、?!」 「少佐の作戦でね、僕の血をわざと吸わせてそいつを倒したんだ。 そんでー、そのかわり僕もその『死の河』に取り込まれちゃったんだ」 「ハァ? 全っ然ワケ解んない。 大体誰よ、その『ショウサ』って」 「あ、そうだ! 少佐!」 多分もうこの世界にはいないだろう、彼の望みどうりに。 でも。 会いに行こう。 不意にそう思い立ち、『跳』んだ。 ============================== 鎚の音が眼下に響く。 再生の鎚の音が。 晴れ渡る空の下、そびえたつ時計台<ビッグベン>の屋根の上、 そこかしこから響く、その平和の音を聞く。 ロンドン塔。 ロンドン橋。 タワーブリッジ。 ウェストミンスター寺院。 セントポール大聖堂。 大英博物館。 大英図書館。 スコットランドヤード。 ピカデリー。 ソーホー。 シティー。 サザーク。 昔のままに復元されたもの、新しく生まれ変わったもの、 そして、今まさに生まれ出でようとしているもの。 かつて自分たちが一つ残らず瓦礫に変えたその街をテコテコと歩く。 トラファルガー広場の前で、不意に立ち止まった。 ネルソン像の替わりにそこに立っていたのは 凛々しく剣を掲げた小太りの男。 ひげを蓄えたその顔は銅像となってもなお 祖国を守る為に鋭い眼光で上空の敵を見据えている。 碑文にはこうある。 『すごく格好良い英雄 悪いナチスをやっつけて すごく格好良く ここに眠る』 「お、なんだ、坊主。 ペンウッド卿の像を見に来たのか?」 資材を担いだ労働者風の男に声をかけられる。 「その変なかぶりもんは取っとけよ、バチが当たらあ。 このお方はなあ、飛行船事件の英雄よ。 このロンドンを守るため、 腹に爆弾巻きつけて敵陣に突っ込んだって言うぜ? お前さんも良っく拝んどきな」 「ぷ、ぷふふ、あははは!!」 思わず笑い出す。 おなかを抱えて。 涙を拭きながら遠くを見やる。 「僕たちの『戦争』って、 いったい何だったんだろうね、少佐」 ============================== 「へえ、ここは無事だったんだー」 がらんどうの薄闇に大きく響く足音を聞きながら 懐かしく体を包む甘やかな香りをゆっくりと吸い込む。 鉄の匂い。 油の匂い。 火薬の匂い。 血の匂い。 ジャブローの密林奥深くに隠された、我らが夢の棲家。 そして我らが夢のあと。 『豹の巣』<パンテルシャンツェ> 飛行船格納庫はかつての主を失いカラになったままの構内を晒し、 物言わぬままに突然の来訪者を受け入れている。 もう二度と開く事は無い可動式天井をゆっくりと見上げた。 格納庫を離れ兵舎へ。 蜘蛛の巣の様に張り巡らされた地下道を歩く。 食堂を通り過ぎて武器庫へ。 「わは!」 思わず声を上げる。 懐かしい顔ぶれがそこにはあった。 ラインメタル FG42 自動小銃 ハーネル StG44 突撃銃 MP40 “シュマイザー” 短機関銃 山積みにされた7.92mm弾の弾薬箱 床に散らばったままの9mm弾 ケースに入れられ並ぶM24型柄付手榴弾 無造作に立てかけられたHAS パンツァーファウスト 厚く積もった埃をなぞる。 彼らも置いていかれてしまったのか。 皆、行ってしまったというのに。 会議室を抜けて通路の突き当たり。 何度も何度も通ったその扉を開ける。 いや、きちんと「扉を開けて」入ったのは初めてかも知れない。 磨き上げられた机、革の張ったチェア、嗅ぎ慣れた匂い。 そして、机の後ろに掲げられた、呪われた我らの『旗』。 この見慣れた光景にも、やはり等しく時間は流れていた。 目を細め、埃をかぶった景色に微笑む。 ようやく、あらためて、理解をする。 全てはもう終わってしまったのだ、と。 あの時間はきっともう、戻らない。 あの人は本当に、何もかもを引き連れ行ってしまったのだ。 鉤十字の腕章を外し、そっと机の上に置いて小さくつぶやいた。 「さようなら、少佐」 。。 ゚○゚ (明日になったら、退学届けを出そう) 枕に顔をうずめたまま、少女はぼんやりと決意する。 この世に生まれ落ちて初めて成功した魔法。 彼女がメイジであるただ一つの証。 幾百幾千の失敗にもくじける事のなかった心は たった一度の成功の証が目の前から消え失せた時、 熱したグラスに冷水を注いだかの如くに いともた易く砕け散った。 あれならば、いつもの様に爆発するだけのほうが幾万倍もましだった。 召喚した使い魔がその場から掻き消えた後に 級友はいつもの如くにはやし立てたが、 少女がひざから崩れ落ち声も無く涙を流すに至り、 いたたまれぬ空気に耐えかねて 一人二人とその場を去っていった。 そして、その涙ももはや枯れ果てた。 (ミスタ・コルベールは明日もう一度 追試をすると言ってくれたけど) これ以上、家名に泥を塗るわけにもいかない。 砕けた心に最後に残されたのは、貴族としての義務感のみだった。 「ごめんなさい、母さま」 水分を無くし、かさつく唇で詫びる。 ============================== ガタリと背後で音がした。 (誰か、冷やかしにでも来たのかしら) そちらを見もせず、ベッドに横たわったままで無感動に思う。 「あ。 いたいた!」 がばっ! 陽気な声に思わず飛び起きる。 この声は。 この人をバカにしたような声。 振り向くと、二つの月に照らされた人影がそこにあった。 自分と同じくらいの背格好に、月光に輝く金色の髪。 軍服風の半そでシャツと半ズボン、手袋にネクタイ。 切れ長の目に小生意気そうな口元。 そして何より、頭に生えたその猫の耳。 「あ、あ、あんた?!」 「なあに? ルイズ」 のん気に返事を返す。 脳内が轟々と音を立てて渦を巻く。 なんで? 何でこいつがここに? 失敗したはずなのに? 失敗じゃなかった? 消えたんじゃなかったの? 干からび切ったはずの心に、混乱とともに 何かがなだれ込んでくる。 「あれ? ルイズ。 泣いてるの?」 ひょいと顔を覗き込まれる。 「な!? そ、そんな訳無いでしょ!!」 枕を顔面に叩き込むとあわてて顔を背ける。 「レディの顔を覗き込むなんて失礼でしょ!」 次第に状況を把握するとともに、猛烈に腹が立ってくる。 今までどこをほっつき歩いてたの!? どうしてまた自分のことを呼び捨てにしてるの!? 大体――― 「大体、何で今頃戻って来てんのよ!!」 「いてて。 何で、って、僕はルイズの使い魔になったんでしょ?」 「へ?」 「へ?って、違うの?」 耳をパタ付かせて小首をかしげる。 回収した枕を胸に抱く。 「ち、違わないわよ、違うわけ無いでしょ! でも、、でもそうよ、 私まだあんたの名前も聞いてないじゃない! 私に自己紹介させときながら。 あんた、、名前は?」 待ってましたとばかりに胸を張る。 得意顔で目を細め、張った胸にぽむと手を乗せる。 「えっへん。 良くぞ聞いてくれました。 僕の名前は シュレディンガー ! よろしくね、ご主人サマ!」 。。 ゚○゚ 前ページ次ページ確率世界のヴァリエール
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前ページ次ページ確率世界のヴァリエール 深夜のヴェストリ広場。 灯された杖の明かりをたよりに、 二人の少女が自らの書いた小説を交換し、読みふけっている。 少女の一人、モンモランシーがにやけた顔でタバサにたずねる。 「どう?どう? 今度のはちょっと良いでしょ」 「キモい。 ギーシュ攻めなんて信じられない。」 「あんたのコルベール受けよりマシよバカ!」 不毛な論争を繰り広げる二人に、足音が近づく。 「あら、獣姦娘が来たわ」 「ひどいですわ、モンモランシーお姉さま」 書き上げたばかりの著作を自慢げに差し出しながら、 ケティが口を尖らせて抗議する。 「私のヴェルダンデ攻めは、ギーシュ様への愛なんです!」 病状は深刻だ。 確率世界のヴァリエール - Cats in a Box - 第四話 「ルイズー、ま~た学院長に呼ばれたって? 今度はなーにやらかしたのよ」 「今度は何にもやってないわよ! てか、何で付いて来てんのよ、キュルケ」 「見物」 言い合いながら朝の廊下を歩く二人の後ろを フレイムにまたがったシュレディンガーが付いてくる。 まだ寝足りないのか、フレイムの歩みにあわせて 猫耳頭が舟をこぐ。 「し、失礼します!」 ルイズが学院長室のドアを開けると、 見慣れた顔ぶれが応接用のソファに座っていた。 タバサ、モンモランシー、ケティ、それにギーシュもいる。 「あら、おはよ。 あなたも呼ばれたの? ルイズ。 また何かやっちゃった?」 「何もやってないって言ってるでしょ! まったくどいつもこいつも人の顔見るなり、、、 てゆかモンモランシー、そっちこそ何やったのよ」 「わたし達はアレよ。 事件の目撃者ってヤツ? こっちは付き添い」 「やあ」 ギーシュが前髪を掻き上げつつ手を振る。 「はぁ? 何の?」 「それを今から説明します」 振り返ると、眼鏡を光らせたロングビルがファイルを抱え立っている。 「おお、来てくれたか、ミス・ヴァリエール。 それにシュレ坊や、よしよし。 それでは始めようかの」 ロングビルの後ろから入ってきたオスマンが 「シュレ坊」の頭を撫でながら皆に切り出す。 「ミス・ロングビル、例のものを」 『破壊の杖、確かに領収いたしました。 土くれのフーケ』 ロングビルがテーブルの上に置いたカードにはこうあった。 「え? これって、、、」 「宝物庫にあったものじゃ、ミス・ヴァリエール」 「あなたたち三人が昨晩見たものはやはりフーケのゴーレムでした」 ロングビルがソファに座った三人の少女に告げる。 「あらやだ、フーケってあれ? 今ウワサの貴族専門の盗賊ってヤツ?」 キュルケが好奇心で目を輝かせながらロングビルに尋ねる。 「そう、そのフーケです。 そのフーケが昨晩学院の宝物庫を襲い、破壊の杖を盗んでいったのです。 手口はゴーレムを使って壁を壊すというもので、こちらの三人はその目撃者。 宝物庫の壁は教員達により修復済みですが、言うまでもなく口外無用です。 それで、学院長。 なぜこの二人をお呼びに?」 「いやいや、用事があるのはこの子に、じゃ」 オスマンがシュレディンガーの頭にぽんと手を置く。 「、、あ」 ロングビルが思わず声を漏らす。 「い、いえ、あの、でもあのー、学院長? あの件はミスタ・コルベールたち教員にお願いしようかと」 「じゃが君の見つけたフーケの隠れ家は、けっこう遠いんじゃろ? そんなまどろっこしいことをせずとも、この子らならすぐじゃ」 「し、しかし、あ、そ、そうです! フーケが待ち構えているかも知れません! いえ、きっと罠です、危険です!」 「それならばすぐに戻ってくればよい。 なんにせよフーケを捕らえるのは王宮の仕事。 彼らの面子をわざわざ潰す事もあるまい。 こちらは盗まれた物さえ戻ればそれで良い。 ミス・ヴァリエール、引き受けてくれるかの?」 「はい! 喜んで!」 突然に訪れた名誉回復の機会にルイズは奮い立つ。 「で、あんたたち、三人でそんな夜中に何やってたの?」 「秘密。」 ============================== 五分後。 「だからいったでしょお? もう、いきあたりばったりなんだもん」 「炭焼き小屋があんなにあるなんて聞いてないわよ! すみません、ミス・ロングビル。 あのー、地図、いいですか?」 ============================== さらに五分後。 「ありました!」 大きな黒いケースを抱え戻ってくる。 「おお、これじゃこれじゃ。 良くやってくれたの、二人とも」 オスマンが戻ってきたシュレディンガーの頭をなでる。 「へー、これ? 学院長、せっかくだし中見ても良いですか?」 キュルケが物珍しげに箱を覗き込む。 「おお、そうじゃな。 念のため中身を確認しようかの」 オスマンがケースを開ける。 そこには、40サントはあろうかという黒い鉄塊が収められていた。 「これって、、銃? でも、、、」 ルイズも銃をみたことは何度かある。 しかし、ケースに収められた「これ」は、そのどれとも異なっていた。 素人目にも判る加工精度、銃身に纏い付いた禍々しさ、何よりその巨大さ。 とても人間が扱えるシロモノとは思えない。 「じーさす、、くりす、と?」 スライドに刻まれた刻印を読んでみる。 『Jesus Christ is in Heaven now』 突然にシュレディンガーの声が響く。 「対化物戦闘用13mm拳銃『ジャッカル』 全長39cm、重量16kg、装弾数6発、専用弾13mm炸裂鉄鋼弾」 「シュレディンガー、、?」 さっきまでと異なる自分の使い魔の雰囲気に ルイズは思わず息を呑む。 「こっちに呼ばれた時、ルイズに話したでしょ? 僕の、僕らの敵だった吸血鬼、『死の河』。 コレはそいつの持ち物さ」 「ほう、シュレ坊や、コレを知っとるのか」 オスマンが驚きの声を出す。 「ヒゲじいちゃん。 これってどうしたの?」 「王宮からの預かり物でな。 詳しくは知らん」 「てゆーか学院長。 コレって本当に銃なの?」 キュルケがケースに手をかけ、銃を取り出す。 両手で抱え込み持ち上げるのがやっとの様子で、 構えることも、ましてや撃つ事もできそうに無い。 「うっわー、すご。 シュレちゃん、『死の河』って言ったっけ? そいつ本当に化物なのね。 こんなの扱えるなんて」 「そもそもコレ本当に撃てるの? うそ臭いわね」 モンモランシーが怪訝そうな顔で銃をながめる。 「そういう事なら僕に任せてくれないかい?」 「はあ? ギーシュ、あなたじゃ持ち上げるのもやっとでしょ」 「僕が撃つとは言って無いさ」 「あ、そうか」 シュレディンガーを除く皆が納得する。 。。 ゚○゚ ヴェストリ広場。 ギーシュがバラの花の付いた杖を振る。 八枚の花びらのうち二枚が散りこぼれ、二体の青銅のゴーレムが現れる。 「へえ、すごい!」 シュレディンガーが感嘆の声を上げる。 一体が銃を構え、もう一体が壁際に立つ。 「この子を的にするのはいささか気が進まないが」 ギーシュの作り出したゴーレムは女性の形をしていた。 「じゃ、いくよ。 、、、、あれ?」 「あ、セーフティ?」 シュレディンガーがギーシュにトコトコと近づく。 「弾(アモ)を弾装(マガジン)に入れてー、 遊底(スライド)を引いてー、安全装置(セーフティ)を外してー。 あと最後にー、耳をふさいで」 落雷の如き轟音が鳴り響く。 「おおー!!」 中空の胸部を易々と粉砕し、ゴーレムの背後の壁が大きく砕ける。 ジャッカルを構えていた方のゴーレムを振り返る。 「おぉー、、」 両肩がもげて吹き飛んでいた。 「破壊力は大したものですが、これでは実用には向きませんね」 ロングビルが壊れた壁を修復しながら散らばったゴーレムを見やる。 「じゃな。 ミス・ロングビル、コレを宝物庫に戻して置いてくれるかの」 「かしこまりました」 ロングビルがジャッカルをケースに収める。 そのロングビルの様子を見つめていたタバサが その場から立ち去ろうとするキュルケの袖を引く。 「ん? どしたの?」 「ちょっと。」 。。 ゚○゚ 学院のすぐそば、森の入り口。 ロングビルが止めてある馬車に乗り込む。 「ま、運用法も判ったし、 結果オーライってとこね」 ジャッカルの入ったケースを荷台に放り込み、 置いてあったフードをはおって眼鏡を投げ捨てる。 ============================== 「そこまでよ、ミス・ロングビル!」 突然の声にロングビルが振り向くと、 そこにはルイズとその使い魔が立っていた。 「とうとう尻尾を見せたわね!」 「な、何の話でしょうか? ミス・ヴァリエール」 「隠したって無駄よ。 変なフードを着て眼鏡を外してはいるけど、 そんな変装、私はお見通しよ。 今私の名前を言ったのが何よりの証拠だわ!」 「え? いやこれ、変装じゃなくて」 微妙な齟齬にロングビルが困り笑いをする。 「言い訳無用! まずは今朝の貴女の態度、 何だか怪しかったわ! それにフーケの隠れ家を見つけた早さ、 何だか手際が良すぎるわ! それに壁を修復してみせたでしょ、 あなたが土くれのフーケと同じ土のメイジって証ね! 何だか都合が良すぎるわ! つまり!」 ひゅんっ! 風切り音も勇ましく、ロングビルに杖を突き付ける。 「土くれのフーケが現れたなんてでっちあげ! あなたがこの事件の犯人よ、ミス・ロングビル!!」 「、、、えーと、」 「いや、違うってルイズ。 タバサの推理はそうじゃなくってー」 「え~? 大体こんなだったでしょ」 「だからロングビルがフーケをでっち上げたんじゃなくってー。 ロングビルの正体がフーケなんだ、って言ってたでしょお。 でしょ? フーケ」 「ええ、まあ、一応」 「ホラ」 「え~?」 いまいち納得のいかない表情でルイズがロングビルに向き直る。 ひゅんっ! 風切り音も勇ましく、ロングビルに杖を突き付ける。 「じゃあ、 そんな感じで!!」 「、、、」 「、、、」 「お前の主人、バカでしょ」 「あ、わかる?」 「な?! 二人して何言っちゃってんのよ! バカって方がアレよ、ええと、アレよ! ああもうこっちはいいわ、シュレ。 私が食い止めとくから一分でみんなを呼んでくるのよ! はやーく!!」 「一分ねえ、、」 あきれた様子でロングビル=フーケが吐き捨てる。 呪文の詠唱とともにゴリゴリと土が盛り上がり、30メイルは あろうかという巨大な土くれのゴーレムが形作られていく。 「あんたをすり潰すには充分だわね、おチビちゃん」 ルイズがシュレディンガーに向き直る。 「じゅじゅじゅ十秒で!」 慌てふためくルイズの上を大きな影がよぎる。 「あ、あれって?!」 「シルフィード!」 ゴーレムと二人との間に三人が降り立つ。 「タバサ、キュルケ、それにギーシュ!」 喜ぶルイズの声を背中に聞きながら、キュルケが名乗りを上げる。 「正義の味方、参上ってところね。 どうやって見つけようかと思ってたけど、良かったわー。 あんたがこんな大きな目印を作ってくれる様なおバカさんで」 「そうよ、バーカバーカ!」 「はいはい、あんたが何かバカにされたのは判ったから、 おとなしく後ろで見てなさい、ルイズちゃん」 「ちょ、来るなりなんでのけ者扱いなのよ、私は貴族なのよ!」 キュルケを睨みつける。 「魔法が使える者を、貴族と呼ぶんじゃないわ。 敵に後ろを見せない者を、貴族と呼ぶのよ!」 「そりゃあ違うね」 「違う。」 「違うに決まってんでしょ、バッカじゃない?」 三人がいっせいに突っ込む。 「逃げないなんて犬でもできるわ。 己の敵を魔法で打ち倒す者を、貴族というのよ!」 キュルケがゴーレムを見上げ、獰猛な笑みを浮かべる。 「だから貴族に「なる」までは、ルイズ、君は「見学」だ」 ギーシュが振り返りもせず、肩越しにバラの杖を振る。 「シルフィード。」 タバサがフーケを睨んだまま、ルイズを指さす。 「ちょ? 何? 放しなさいよ!」 がっちりと爪で掴まれた体がふわりと中に浮く。 「お姉さまたちの邪魔しちゃダメなのね」 二人ともシルフィードに森の木陰まで連れて行かれる。 「何でよ! よってたかってあたしを邪魔者あつかいして!」 「まーまー、みんなだってルイズの為を思って」 「判ってるわよそんな事!!」 にじむ涙を必死に堪える。 「そんな心配をされなきゃいけない、、、 自分に腹が立つって言ってんのよ!!」 びっくりした顔のシュレディンガーの口もとが、すぐににんまりと緩む。 「、、、何よ、あんたまでバカにしてんの?」 「いやー、良いご主人様をもって幸せだなー、って」 「、、、な、なによそれ」 ギーシュがバラの杖を振る。 六枚のうち四枚の花びらが地面に触れると、 剣と盾を持った四体のゴーレムが現れる。 「ほ~う、格上相手に力の温存とは、大した余裕じゃない」 フーケがゴーレムの肩の上で笑う。 「笑ってる暇なんて、無いんじゃない、のっ!」 キュルケの放ったファイヤーボールをゴーレムの腕で受け止める。 「ラグーズ・ウォータル・イス・イーサ・ウィンデ!」 タバサが氷の矢を放つ。 が、それもゴーレムの腕の一振りで吹き飛ばす。 「こんなもんかい?」 足に斬りかかるゴーレムの一体が、薙ぎ払われた拳で解体される。 「ひとーつ!」 「ありゃま、大した質量だ」 ギーシュがのん気につぶやく。 「ふたつ! みっつ!」 魔法を放つ二人を援護する為に巨大なゴーレムの足元で 素早い動きでかく乱するが、いかんせんスケールが違いすぎる。 残り一体となったギーシュのゴーレムをゆっくりと追い詰める。 「あっけないねえ、これでよっつ!!」 拳を振りかぶったゴーレムの足元が突然に陥没し、巨体が片ひざを突く。 「よしよし、よく間に合ったねえ」 フーケが振り返ると、ギーシュのそばに巨大なモグラが顔を出している。 そして、その横にはゴーレムが二体。 手には四連装式クロスボウ。 「メイジ狙いはいくさの常道」 ギーシュが全ての花びらの散った杖を振るうと同時に、放弦の音が響く。 ドッドドドドドドドッ!! 「わぉ、やるわね」 キュルケが素直に驚く。 「いや、まだだ」 ギーシュが苦く笑う。 ギーシュのゴーレムが放った八本の矢は全て 土くれのゴーレムから伸びた土壁に刺さっていた。 「中々やるけど、、所詮はガキね」 土壁の向こうからフーケが立ち上がる。 ギーシュが短く息を吐く。 「よし、じゃあプランBでいこう」 「ええ?あんの? そんなもん」 「じゃあ、後は頼んだよ淑女達(レディス)」 ギーシュが花びらのなくなった杖を掲げる。 「イル・アース・デル!!」 錬金の詠唱とともに精神力を使い果たしたギーシュが 杖を掲げたキメ顔のままで気を失い倒れこむ。 「はんっ、何を、、?」 土壁に刺さったクロスボウの矢に刻まれた ルーンが輝き、ざらり、と黒い粉に変わっていく。 硝石と硫黄、黒炭の匂い、、火薬!! フーケが気付いたその時、タバサの魔法が巻き上げた火薬に キュルケのファイヤーボールが炸裂した。 ゴォンッッッ!!! ファイヤーボールの上位魔法、フレイムボールさえしのぐ大爆発が 甲高い反響音を響き渡らせる。 「どうよ!!」 「駄目。」 爆煙が晴れていく。 フーケのローブや髪の毛は焼け焦げていたが、 致命傷には至っていない。 風のメイジであるタバサは、フーケが爆発を エアハンマーで相殺した事を見抜いていた。 「さあてよくもまあ やりもやってくれたねえ!!」 凶悪な笑みを浮かべたフーケを乗せて、ゴーレムがゆっくりと立ち上がる。 「あーらら、マズそ」 キュルケが引きつり笑う。 その時。 爆発音とともにゴーレムが再び片ひざを突いた。 「やったわっ?!」 ルイズの声がゴーレムの足元から響く。 ルイズが起こした魔法失敗の爆発は、 ゴーレムの右足のひざから下を吹き飛ばしていた。 「馬鹿っ、ルイズ、近すぎる!!」 キュルケが叫ぶ。 「舐めるんじゃないよっ、このチビが!!」 ゴーレムがその巨大な拳を振り上げ、ルイズへと振り下ろす。 「ルイズ、あぶない!」 どんっ。 突然現れたシュレディンガーに突き飛ばされて ごろりと転がり一回転してぺたりと座り込む。 「な、なにすんの! 、、、よ、、」 声を上げるルイズの目の前、シュレディンガーの居た場所には 巨大な拳が視界を塞いでいた。 「え?、、、え?」 現実感の無い程に巨大な拳を呆然と眺める。 「、、、シュレ、ディンガー?」 巨大な土くれの塊がゆっくりと持ち上がる。 「、、、うそ」 頭の中が空白で埋まり、すべてが消音(ミュート)された世界で 土くれと地面の間から現れた赤黒いペーストが、湿った音を立てる。 に ち っ 。 「いやああああぁぁ!!!」 ルイズの叫びが、森に響いた。 「ちっ」 フーケが苦々しく舌打ちをする。 頭に昇っていた血が引いていく。 最初は適当にあしらう筈だった。 だが、自分の操るゴーレムから伝わる感触が足の裏に届く。 「シュレ! シュレぇ!」 目の前の赤黒くつぶれた塊を見つめ、ルイズは半狂乱で泣き叫ぶ。 「うるっさいなー、もう」 突然の声に後ろを振り返ると、猫耳頭が口を曲げてこっちを見ている。 「へ?」 前を向き直るとそこには何も無い。 「へ?」 「うそでしょ? 確かにさっき、、、」 足元に再び現れたシュレディンガーを見下ろし、フーケがつぶやく。 「あいつ、、、化け物か?」 フーケの背中を冷たいものがつたう。 「ひっどいなあ~、バケモノだなんて」 「ひっ?!」 間の抜けた声に振り返る。 「そっちだってー、ボクを殺したクセにさあ」 猫目の瞳孔が大きく開き、虚無が笑う。 「うわっっ?!」 思わず飛び退いたフーケの足の下に、足場はなかった。 咄嗟にレビテーションを唱えようとする、が。 がごす。 「「「あ」」」 宙に張り出した自分のゴーレムの腕で後頭部を強打し、 ぐるりと一回転した後、フーケはぼとりと地面に落ちた。 「生きてる。」 「どーすんの? これ」 「縛っちゃおか」 寄り集まって気を失っているフーケの顔を覗き込む。 「そりゃ。とう」ギュリギュリギュリ 「ミッションコンプ!!」 縛ったフーケに足を乗せ、さわやかな笑顔でガッツポーズを決める。 「ちょ、ルイズ! ナニあんた一人の手柄みたいな顔してんのよ!」 「何よ、フーケ見つけたのはあたしでしょ」 「見つけたのはシュレちゃんでしょうが!」 「良い子。」 なでりなでり。 タバサがシュレディンガーの頭をなでる。 「大体キュルケ、そーいうあんたこそ役に立ってないじゃない」 「はあ?! あの大爆発を見なかったのルイズ?!」 「あんなもんほぼギーシュの仕込みじゃない。 あんたなんて火薬に火ぃつけただけでしょ! アレなら私だってできるッツーの!」 「あんたのしょっぼい爆発で火なんか付くわけ無いでしょ!」 「何がしょぼいのよ! ゴーレムの足もいだの見てたでしょ!」 「それでシュレちゃんに助けられてりゃ世話ぁ無いわね!」 ギーシュが目覚めるまで二人の罵り合いは続いた。 。。 ゚○゚ 「いやいや、よくぞフーケを捕らえてくれたの、礼を言うぞ」 オスマンがシュレディンガーをなでながら、誇らしげな顔の皆を見渡す。 「しかし、みなが無事で何よりですが、 何も君達だけでやらなくても良かったのではないかね?」 コルベールが心配した顔で問いかける。 「ま、ご心配ありがとうございます。 でも、タバサの推理はあくまで仮説、確証が有りませんでしたので。 いたずらに先生方に動揺を与えては、と思いまして。 で、その後はまあ、その場のノリですわ」 キュルケがコルベールに微笑む。 「しかし驚いたのう。 あのミス・ロングビルがフー」 「あーっ!」 オスマンの言葉をシュレディンガーの声がさえぎる。 「あれ、、、あれれ。 おろろろろ」 シュレディンガーが手袋を脱ぎ、手の裏表を眺め、 シャツをまくり、へそを丸出しにして体のあちこちを覗きこんだ後、 震えながら上目遣いに自分の主人を見つめる。 「ルイズー、ゴメんなさい。 ルーンなくしちゃいましたー」 「はあ? あんたもー、何やってんのよ」 シュレディンガーの手を掴んで裏表を見回し、 シャツを引っぺがして体のあちこちを探し回る。 「ああもうソコ座んなさいなシュレディンガー。 また付けたげるから」 シュレディンガーを椅子に座らせて呪文を唱え、キスをする。 「おおー」 自分の手の甲に再び刻まれたルーンを眺め、満足げな声を上げる。 「ほら、今度は無くさないのよ」 猫耳頭をぺチンと叩く。 「何よそのデタラメさ。 こないだから「魔法が成功した~成功した~」って言い張ってたけどさ、 あんたそれどー見ても失敗してるでしょ」 キュルケが呆れる。 「おお、そうですオールド・オスマン。 彼のこのルーンについてなのですが」 コルベールが急に興奮した面持ちになり、テーブルに資料を広げる。 「前にお話しようと思っていたんですが、コレを見てください。 このシュレディンガー君に刻まれたルーン。 それとこの始祖ブリミルの使い魔のルーンを見てください。 ほら、これ。 まったく同じルーンです!」 部屋の皆が、テーブルの上の本とシュレディンガーの手を交互に眺める。 「ほう、おめでとう。 ミス・ヴァリエール」 ギーシュがさしてめでたそうでもなくルイズを祝福する。 「は? 何言ってんのよギーシュ」 「君は自分の系統をずっと探していたんだろう? 見つかったじゃあないか。 君の系統は、『虚無』だ」 「、、、 はああ?!」 「ぶっははは! すっごいじゃないルイズ! おめでと~! 今までバカにして御免なさいね~、ルイズちゃん。 学友に伝説の『虚無』が居たなんて、アタシすっごい光栄だわ!」 「な、何言ってんのキュルケ、そんなわけ無いでしょ!」 「おめでとう。」 「タ、タバサ? あんたまで!」 「すごいわー、ルイズ。 見直したわー。 あ、じゃあいっつものあの爆発も失敗じゃなくってー、 『虚無』の魔法だったのね! なるほど!」 「ち、違うって言ってるでしょモンモランシー! 私がそんなワケ判んない系統な訳無いじゃない!」 「お、おめでとう御座いますー」 拍手をするモンモランシーにつられて 『虚無』自体が何なのかよく判らないケティも続く。 「こりゃあ『泣き虫ルイズ』は返上だねえ」 「そうねぇギーシュ。 これからは『虚無のルイズ』ね。 おめでとー! 『虚無のルイズ』ちゃん!」 「違うって言ってるでしょキュルケ! ふっざけないでよ!!」 自分を囲んで祝福の拍手を送る学友達にルイズが叫ぶ。 。。 ゚○゚ 「私はゼーッタイ! 『虚無』なんかじゃないんだから!!」 前ページ次ページ確率世界のヴァリエール
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帰省! ラ・ヴァリエールから脱出せよ! 従者が使い魔一人では情けないという事でシエスタを連れて、ルイズは実家のラ・ヴァリエールに帰郷していた。 というのもアルビオンへの侵攻作戦が発布され、遠征軍の編成が決まった。 貴族学生の多くが仕官として連れていかれ、教師も何人か戦地へと赴いた。 アンリエッタ直属の女官にして虚無の担い手であるルイズは戦争に必要な存在、しかしルイズが実家に「アルビオン侵攻に加わります」と文を送ったら大騒ぎになった。 従軍はまかりならぬと、長姉のエレオノールが迎えにきたのだ。 当然逆らえるはずもなく、仕方なしにと承太郎も同行している。 ヴァリエール家の者にとって、ルイズはまだ魔法が使えない『ゼロ』のままなのだ。 家族がそろったのは、ヴァリエール家の晩餐の場であった。 長女エレオノールは金髪の釣り目で、ルイズのツンを強化したような傍若無人。 次女カトレアはルイズのパワーアップバージョンで、身長や胸が豊かに育っている。 しかも性格はおっとりしていて母性的。 さすがの承太郎もカトレアの魅力は認めるしかなかった。 その承太郎だが、ルイズの後ろでウェイターのように立たされている。 まあ家族とはいえ公式の場なのだから仕方ないとあきらめていた。 ルイズママも高飛車オーラで場を圧倒していたが、承太郎の無言プレッシャーといい勝負で、一瞬睨み合っただけだが、どちらも一歩も下がらぬプレッシャーとオーラを放ち合った。 とりあえずこれがヴァリエール一家との顔合わせだった。 父親は――用事があって今日は来れないらしい。明日の朝には来るそうだ。 晩餐の場でルイズはエレオノールから散々馬鹿にされて、すっかり落ち込んでしまった。 すると承太郎が突如時間を止めて、エレオノールのワインに何かを一滴入れた。 「ちょっ、何してんのよ!?」 「なぁーに、気にするな。タバサからもらった餞別ってやつだ」 時が再始動してエレオノールがワインを飲むと、椅子ごと後ろにバタンと倒れた。 これが! これが! これがタバ茶だ!! 女性初の犠牲者はエレオノール! 飲まされたのはタバ茶十号! 犠牲者リスト。 三号……空条承太郎。 五号……青銅のギーシュ。 七号……空条承太郎。 八号……空条承太郎。炎蛇のコルベール。 九号……疾風のギトー。 十号……デレ無しツンツン婚約解消女王エレオノール。 フラフラになって起き上がったエレオノールは、ギラリとカトレアを睨んだ。 「カトレア! 私のワインに何か入れたんじゃないでしょうね!?」 「え? いいえ、何も入れてませんよ。今日は」 「……いや、絶対何か入ってるわ。間違いなくアレが」 「そんなまさか」 困惑しながらカトレアはエレオノールのグラスを取り、飲み干す。 承太郎は時を止めてカトレアの持つグラスを取り替えようとしたが、一度止めてから再び時を止めるのに必要な数呼吸の間を確保できず失敗。 カトレアはタバ茶十号の混入されたワインを飲んでしまった。 「……あら、おいしい。タバ茶みたいな味がするわ」 「……やっぱりカトレアの仕業じゃない! 変なお茶を通販で大量に買って!」 「でもおかしいわ。一号から七号まで全部飲んだけれど、こんな味のタバ茶初めてよ。 例えワインで割ってあったとしても、白銀会員の私が間違えるはずないし」 その光景を見て、承太郎は帽子のつばを下ろし「やれやれだぜ」と呟くのだった。 タバ茶の件を全然知らないルイズにとってはとことん謎の出来事である。 そんなこんなで晩餐終了。シエスタは納戸のような部屋でお留守番していた。 晩餐を終えたルイズは、カトレアの部屋に遊びに行った。 『ちいねえさま』と慕うカトレアだけは、いつもルイズに優しくしてくれる理想の姉。 そして理想の貴族の姿でもあった。 病弱であり、様々な水のメイジが治癒を試みても効果の無かったカトレアだが、悲観する事無く、常に聖母のような包容力でルイズの悲しみを癒してくれる。 カトレアはルイズが婚約者に裏切られたのに落ち込んでなくてよかったとか、趣味の動物集めの話とか、同じ色の髪についてとか、ルイズの心休まる事を話した。 ところが、カトレアが「ルイズも恋をする年頃になったのね」と言った途端、ルイズは大慌てだ。否定してもカトレアにはお見通しらしい。相手まで見抜かれた。 「あの使い魔の殿方。物静かだけど内面に力強いものを秘めているようで素敵ね」 「ま、まあ私が召喚した使い魔だし、結構頼りになるけど、その、あの」 「照れ屋さんなんだから。あ、そうそう、これ私が考えた料理なの。食べてみて」 「わあ、おいしいパイ。甘い中にちょっと苦味が利いていて大人の味って感じ」 「大成功だわ。今度これのレシピを新商品開発部に送ってみましょう」 「新商品開発部?」 「こっちの話よ」 どうやらカトレアのはしばみ草料理は、至極真っ当らしかった。 だがそれ故に玄人にはなかなか通用せず白銀会員止まりなのだが。 とまあこんな感じでルイズは至福の夜をすごした。 一方承太郎。納戸のような寝室に戻ってみれば、シエスタが待っていた。 片手に半分ほど空けた酒瓶を持って。顔を赤くして。酒臭い息を吐いて。 「おかえり。とりあえず、飲め」 「……シエスタ?」 「何? 私の酒が飲めないっていうんですか? あぁんっ?」 「…………」 シエスタの変貌の原因が酒にあると察知した承太郎は、即座にこれ以上の悪化を防ぐため酒瓶の中身を全部飲み干した。 「さすがジョータロー、いい飲みっぷり。さすが私が好きになった人です」 「シエスタ、もう寝た方がいいぜ」 「そうですか。寝ますか。解りました、私も女です。覚悟を決めます」 「待て、脱ぐな」 「何ですか、私の身体には興味ありませんか? 胸だって意外と大きいのに。 ええ、解ってます。ミス・ヴァリエールですね? あれがいいんですね? 小さいのが好きな男の人は、いつかやってしまうと聞いた事があります。 このままだとジョータローが道を踏み外してしまいます。 私が何とかして上げます。治療法は私が知っています。いざっ」 「スタープラチナ。花京院直伝の当て身ッ」 「ガクッ」 酔っ払ったシエスタをベッドに寝かせた承太郎は、床に寝転がった。 するとデルフリンガーが呆れた口調で言う。 「人間てのは大変だね、酒で頭が変になっちまって」 「酒も飲めねーボロ剣が酒を語るんじゃねー」 「まーそう言うなよ相棒。おめーさんが無口なせいで、俺まで喋る機会が無くてさ。 何かね、退屈。俺、もっと出番欲しい。おめーさん俺と話をしないし、スタープラチナとかいうのあるから、俺を全然抜かないし、どんどん忘れ去られていくような感じがすんだよね。 仮に出番があったとしても、俺剣なのに、魔法吸い込み用の盾専用な予感がする。 これってさ、剣としては結構悲しい事だと俺は思う。だから相棒には――」 鍔を鞘に押し込んでデルフリンガーの口をふさぐと、承太郎は冷たい床で眠った。 翌朝、父親帰還。すなわちラ・ヴァリエール公爵である。 ルイズおよび家族を食堂に呼び集めた公爵は、自分は戦争に反対すると宣言。 軍務を退いた身だしこの戦争も気に入らないし枢機卿うぜーし、という感じだ。 アルビオン軍の侵略を迎え撃つのはいい、自国を守るのは王侯貴族の義務だ。 しかし攻め込むのは問題外。 アルビオン軍は五万。 トリステイン・ゲルマニア連合軍は六万。 攻める側は守る側に比べて三倍の戦力があってこそ確実な勝利があるのだ。 拠点を得て空を制しても、たった一万の差では敗戦する可能性が高いという判断である。 そしてこれは国を守るためではなく、女王の復讐のための戦争なのだ。 ヴァリエール公爵が反対するのは当然であった。 で、ルイズ。そんな父親相手に「従軍したいです」なんて言わなきゃならない。 でもその話はすでに耳に入っているらしく、そんな馬鹿な戦争に出る必要は無いと、公爵はルイズに謹慎するよう言いつけた。戦が終わるまでこの城から外出禁止。 だいたい魔法が使えないルイズが戦争に行って何になるのか? 仕方なくルイズは魔法が使えるようになった事を話したが、系統を聞かれて正直に「虚無」と答える訳にもいかず「火です」と誤魔化した。 万が一の時はエクスプロージョンを見せれば火と勘違いしてくれるかもしれないし。 が、それでも公爵パパ認めないから困ってしまう。 最後の手段とばかりに女王陛下からルイズの力が必要だ、と言われたと説明してみた。 「大変名誉な事だ。だがお間違いを指摘するのも忠義、陛下にはわしから上申する」 どんな説得も無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ッ!! 公爵パパが近距離パワー型スタンドを得たら、ラッシュのかけ声は「無駄」だろう。 さらに我が道を行く公爵パパはルイズに婿を取らせると言い出した。 するとルイズはなぜか承太郎を思い出してしまい、その様子から「恋人がいるのか?」「まさか身分の低い貴族が相手か?」と、とんとん拍子で誤解(一部真実)が進み、そしてルイズは逃げ出した。 納戸で承太郎が質素な朝食を摂っていると、戸がノックされた。 シエスタだろうか? 元々シエスタの寝所は別に用意してあるから、朝になったら出て行った。 その時、自分が昨晩酔っ払っていただろう事を恥ずかしがっていたが。 「誰だ?」 承太郎が声をかけると、戸が開いて大きなルイズ……じゃなくてカトレアが入ってきた。 「お邪魔してもよろしいかしら? 使い魔さん」 「……何の用だ?」 カトレアの清楚な美貌を見て、承太郎はふと思う。 ルイズも成長したらこんな感じだろうか? 「ルイズも成長したらこんな感じ……と考えておいでではありませんか? クスクス。でも私みたいにはならないわ」 考えを読まれた承太郎は、やれやれと帽子のつばを下ろした。 「あなた、お名前は?」 「……承太郎だ」 「あら、素敵なお名前ね。まるで……ハルケギニアの人間じゃないような。 何だか根っこの部分が私達とは違う気がするわ。当たっているかしら?」 「……やれやれ。秘密にしといてもらえると助かるぜ」 洞察力というより、純然たる勘で正体を言い当てたカトレアに承太郎は驚きを隠せない。 カトレアは、ルイズの面倒を今まで見てくれた事の感謝と、父親がルイズに言った事柄を承太郎に説明し、ルイズの隠れ場所を教えた。 中庭の池だ。 後はルイズを連れ出し、街道に待っている馬車に乗り込めばいい。 ルイズ達と一緒に来たメイドにすでに手綱を握らせてあるとの事。 ラ・ヴァリエールから逃げるお膳立てを、なぜカトレアがするのか? 「戦は感心しない。嫌いだわ。ルイズにも行って欲しくない。 でもね、あの子が自分で決めて、それを必要とする人がいらっしゃる。 だったら行かせて上げるべきだと思うの。それは私達が決めていい事ではないと」 「……俺の狙いはクロムウェルの首だぜ。それでもいいのか?」 「ええ。私の可愛い妹をどうかよろしくお願いいたします、異界の騎士殿」 中庭の池の小船の上で、ルイズはうずくまって泣いていた。 つらい時悲しい時いつも、ルイズはここにいた。ここで泣いていた。 独りぼっちの世界に閉じこもって、何もかもから逃げ出して。 そんな世界が、突然大きく揺れる。 「うひゃあ!?」 慌てて顔を上げてみれば、承太郎が小船の上に立っていた。 水音は無かったから、スタープラチナで岸から跳んで来たんだろう。 「あああ、危ないじゃない!」 「……祖国のため、女王陛下のために戦うんじゃなかったのか? ルイズ。 だったら小船から降りな。おめーの姉貴が馬車を用意してくれた、城を出る」 「だ、駄目よ。家族の許しをもらってないもの。 それにいくらがんばっても私は虚無、家族に何も話せない、認められない。 ……すごくさみしいわ、そんなのって」 「確かに……お前は認めてもらうために努力をしてきた。 だがお前を認めている奴は……いる」 「誰よ?」 「ギーシュ、キュルケ、タバサ……お姫様。それから俺だ。 お前の虚無はタルブの村を救った。俺ですら守り切れなかった物を守った。 この戦争、虚無の存在が勝敗を左右するかもしれん……。 おめーが来ないというなら、残念だ。俺は一人でも行く」 「どうして?」 「奴等は『ウェールズ達の生命と名誉を侮辱した』……その報いを受けさせる。 戦争なんてどうだっていい。タルブの村の連中や、魔法学院の連中を守りたい。 それだけだ……俺が行く理由は。おめーも行くのなら、俺の手を取れ」 承太郎が手を差し出す。 いつか見た、夢。 ――安心しろルイズ。もう……誰にもおめーに手出しはさせねえ。 ああ、思い出した。 あの時、あの夢、私は彼の手を取った。 アルビオンから脱出した時に見た夢。 夢はただの夢。 けれどこれは。 「あんた、私を守るって約束しなさいよ? 虚無の使い魔なんだから、虚無の詠唱中の私を守るのが仕事よ」 「やれやれ……そんな言い方しかできねーのか、てめーは」 二人の手が重なり、どちらからともなく微笑を浮かべる。 「行きましょう、アルビオンに」 「ああ」 小船を漕ぐのが面倒だった承太郎は、スタープラチナの脚力で岸まで戻ろうとし、ルイズを抱きしめてから岸を見た。 もし岸を見るのが先だったら、ルイズを抱きしめなかったかもしれない。 だって、公爵パパが、兵隊をいっぱい連れて、池を包囲してたりするんですよ。 怒りでピク、ピクと震えていらっしゃる。口を開かせるとやっかいな事になる確実に。 そこで承太郎は先手を打った。 「公爵! てめー……何の権限があってルイズの従軍を拒んでやがる? 言ってみな」 「平民風情がわしにそんな口を利いていいと思っているのか? おい、あいつ打ち首な」 「ルイズは女王陛下直筆の許可証を受け取っている、女王直属の女官だ! ルイズの権限は女王の権限! てめー等全員女王に逆らうたあいい度胸だ。 俺達の邪魔をするのなら……反逆者であるてめー等を容赦なくぶちのめしていくぜ」 「打ち首じゃなくていいや。あれ、今すぐ殺しなさい。ルイズは塔に監禁、最低一年」 公爵パパの命令と同時に、小船が真っ二つに割れ水柱が立った。 魔法ではなく、スタープラチナの脚力が起こした現象だ。承太郎とルイズはすでに空! 一瞬で急上昇した承太郎達を公爵パパ達が見失った瞬間、 承太郎はスタープラチナでルイズを小脇に抱えるとデルフリンガーを抜いた。 「おっ! 出番か相棒!?」 「おめーを使った方が足が速くなるからな。スタープラチナ・ザ・ワールド!」 公爵パパ達の視線が承太郎達を捕らえる前に時間が停止し、承太郎達は公爵パパの反対側の岸へと着地する。 直後ガンダールヴの能力で強化された身体能力を生かし疾駆する。 時が再始動した時、すでに承太郎達の姿は中庭には無かった。 いともたやすく公爵家から逃げ出した承太郎とルイズは、シエスタの待つ馬車に乗り込み即座に飛び乗った。 ちなみに馬車を引いているのは馬ではなく竜だった。カトレアの計らいらしい。 シエスタは竜に怯えながらも馬車を出し、ルイズ達は無事ラ・ヴァリエールから脱出。 その後、枢機卿と将軍数名に『虚無』の存在が知らされる。 トリステインの軍勢でアルビオンに攻め込むには、どうしても虚無の力が必要だった。 アンリエッタはこの戦争がウェールズの仇を取るという私怨のものだと自覚しながら、それでもこの戦争を望む自分の愚かさを呪った。友人を巻き込んだ自分を蔑んだ。 しかしそんな事などお構い無しに事態は進行する。 トリステイン魔法学院の生徒達が軍隊に連れて行かれる中、承太郎とルイズは竜の羽衣の改修を待っていた。 弾丸の製造などは不可能だったが、コルベールは独自に開発した新兵器を搭載。 技術力が着実に進歩していくのを嬉しく思いながら、結局戦争に利用せざるえない現実に虚しさを覚える。 そして虚無が竜の羽衣をまとい、魔法学院を出立する日が訪れた。
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前ページ次ページ確率世界のヴァリエール 「それでは学院長、今日の任務に行って参ります!」 午前の授業も終わり、学院長室でルイズが任務前の報告を行う。 「うむ、気をつけてな。 皆にはいつも通りに 『ワシの頼む秘密のお使い』に 行かせた事にしておくからの」 「あのー、、、学院長。 私が授業を休むその言い訳、何か他のになりませんか? 最近みんなが私を同情の目で見るんですけど。 この前なんかモンモランシーが涙を浮かべながら、 「学院長に変な事されて無い?」とか聞いて来てましたし」 「うむ、生徒諸君がワシを何じゃと思っとるのか 一遍ハッキリさせとかんといかん様じゃな。 それはそうとしてじゃ」 オスマンがルイズの体を眺め回す。 「な、何ですか?」 その視線に引き気味になるルイズへ、オスマンが尋ねる。 「始祖の祈祷書はワルド子爵から預かっとるな?」 「はい。 肌身離さず持つように言われましたので」 「それと、アルビオン特別大使の証も持っとるな?」 「水のルビーですね? 姫殿下に頂いてからずっと指に付けてますけど?」 「で、何かこう、変わった感じは無いかの?」 「変わった感じ、、、? いやだ、学院長! 何か猥褻な魔法でもかけてるんじゃないでしょうね!?」 「うむ、ミス・ヴァリエール。 君にもワシを何じゃと思っとるのか 一遍キッチリ聞いとかんといかん様じゃな」 確率世界のヴァリエール - Cats in a Box - 第十話 ============================== 「本当にここなの? シュレ」 砦の中は窓を閉め切り明かりも無く、昼間とは思えぬほど暗かった。 何より人の気配が一切無い。 懐にしまってある手渡すはずの密書を思わず探る。 「だと思うんだけどなあ~」 会議室らしき広く薄暗い空間を眺め回す。 部屋の中央には大きく長いテーブルと、その周りに椅子が置かれている。 天井には、、、何かの横断幕? 「あ」 「ど、どうしたの!? シュ、、」 言いかけてルイズも気付く。 正面の扉の向こうに不意に現れた気配に。 体中の全ての細胞が大音量で警報を鳴らす。 ルイズの全身が総毛だっていく。 途轍もなくヤバいものが、あの向こうに、居る。 「シュレ!」 慌てて使い魔の頭を引き寄せようとすると、扉の向こうから声が響いた。 「まーま、そう急がんでも良かろう?」 扉の向こうの気配に似会わぬ鈴を振るような声と共に、部屋の中に明かりが灯る。 テーブルの上にはワインとグラスが置かれ、天井の横断幕には 『ようこそ! 虚無の魔女殿』と書かれている。 ゆっくりと扉が開く。 扉の向こうに居たのは真っ白な少女だった。 白いスーツ、白いコート、白いマフラーに純白の毛皮の帽子。 黒髪のその少女がにっこりと笑う。 「はっはっは、やっと会えたの」 「うわちゃー、やっぱりアンタだったの?」 顔を引きつらせるシュレディンガーに少女が返す。 「連れない言い方じゃな、シュレディンガー。 この前もわざわざ世界の果てまで行っておきながら とっとと帰りおって」 「あー。 『虚無の地平』で感じたあの気配、 あれってやっぱりアンタだったんだ。 でもアレ? じゃあ、アッチとコッチで二人?」 小首を傾げるシュレディンガーの袖をルイズが引く。 「シュレ、この娘、っていうかこの人って、もしかして、、、」 「そう、僕の、僕らの宿敵だった吸血鬼。 『死の河』さ」 白づくめの少女が優雅に一礼をする。 「お初にお目にかかるの、魔女殿」 その後ろから数人の男が走ってくる。 「シェフィールド殿!」 少女は鬱陶しげに後ろからやってきた男の一人を睨む。 「こ、この娘が?」 球帽をかぶった聖職者風の男がルイズを見つめる。 その後ろには武装した兵士達が控えている。 「無粋なヤツじゃな、クロムウェル。 せっかくの対面に水を差しおって」 「クロムウェルって!」 ルイズが驚きの声を上げる。 「ほお、魔女殿も名前は知っておられたか。 左様、この背の高い変な帽子をかぶった男が レコン・キスタの総司令官、オリヴァー・クロムウェルじゃ。 ん? もう神聖アルビオン共和国の王様なんじゃったっけ?」 「い、いや、まだ、その、、、シェフィールド殿?」 「あっそ。 まーどーでもいーや」 興味なさげに目線を外し、二人に向き直る。 「まあ、せっかく会えたんじゃ。 立ち話もなんじゃし座らんか、ん?」 言いながらワインのビンを手に取る。 「、、この砦に居た人たちをどうしたんですか?」 「そんな小難しい話は置いといて」 問いかけるルイズにワインを注いだグラスを差し出す。 ルイズがシェフィールドと呼ばれた少女を睨みつける。 そしてその後ろに立つ聖職者風の男を。 レコン・キスタ総司令官、クロムウェル。 アルビオン王家の、トリステイン王国の、姫殿下の、そして私の敵。 軽く目を閉じ、目を開く。 ワイングラスをひったくると中身をそのまま飲み干し、 たん! と、テーブルの上に置く。 「この砦に居た人たちをどうしたの!!」 白い少女は眉を上げてにんまりと笑い、ひゅう! と口笛を吹く。 そして楽しげに後ろの男を振り返る。 「クロムウェル、客人にお食事を」 。。 ゚○゚ シュレディンガーが椅子を引き、ルイズが腰掛ける。 対面には白い少女、そして自分の横には使い魔の3人きり。 「安心してくれて良い。 元々この砦には王党派の連中はおらんよ。 どうしても魔女殿に会いたくての」 くすりと少女が笑う。 「良い鴨が手に入っての。 腕を振るうたのは久しぶりじゃがな。 ランチはまだじゃろ?」 「へー、料理出来るの?」 シュレディンガーが軽く驚く。 「当ったり前よ。 期待してくれて良いぞ。 ただ、良いオレンジが手に入らなんでソースの出来は今一つだがの。 そうそう、トリステインには良いオレンジの産地があると聞く。 タルブと言うたか? 今度クロムウェルをもがせにでもやるか」 無言で睨むルイズをよそに、少女がワインを傾ける。 「それにしても随分と変わっちゃってなーい? あのアーカードともあろうものが」 「ふん、まるでルーク・ヴァレンタインの様に、か?」 突然出てきた名前にシュレディンガーが苦く笑う。 「うわ、知ってたの?」 「死の河に取り込まれた際に、この私の血が混じったのだろう。 お主らが何処で何をしておるのか位は何となく判る。 それにな、シュレディンガー。 私は『あのアーカード』では無いよ。 アーカードであってアーカードでない。 しかしアーカードそのものとも言える。 なにせ、、、」 アーカードがグラスを置く。 「私の中には、あの人間好きで狗嫌いの ツンデレのヒゲ親父はおらんからのう。 お前と同じよ、シュレディンガー。 全てが溶け合い混ざり合う境目の無い世界から 『私』だけが切り取られ、『私』だけが呼び出された。 世界の果てを漂う死の河から、此方へな」 「アーカード? アンタって一体、、、」 シュレディンガーがしばし言葉を失う。 「言うたとおりさ。 神を信じる余りに神を裏切り化物と成り果てたあの狂王は、 永い永い時の中で、幾千幾万の命と同化を続けるその内に、 永い永い時の中で、幾千幾万の記憶と魂に犯され、蝕まれ、 そもそもの自分自身すらも無くしかけた。 その時に、狂王に代わり死の河を統べる為に死の河より生まれたもの。 それこそが青年の姿を持つ『あの私』であり、少女の姿を持つ『この私』だ。 伯爵と呼ばれたその化物を打ち倒したヘルシング卿は 自らの打ち倒した化物の中にあの私やこの私を見出し、 それらの持つ力を拘束制御術式【クロムウェル】と名づけ、 そして百年をかけて作り上げていったのじゃ。 吸血鬼アーカードをな。 そのアーカードの中から切り取られ召喚されたのが 『この私』だ」 「じゃあ、こちらに呼び出されたアーカードは ええと、つまり、その、ロリカードだけって事?」 シュレディンガーが眉をしかめ腕を組む。 「誰がロリカードじゃ。 だがまあそういう事だ。 この私の中にはあの串刺し公ヴラド・ツェペシュも あの吸血鬼ドラキュラ伯爵も居らん。 それらは今も世界の果てを漂っておる。 この世界にこの身一つで召喚され、シェフィールドという名を 与えられた死の河の切れはし、 今の私はただそれだけに過ぎん」 「あの変な帽子に?」 「あの変な帽子は私のメシ当番に過ぎん。 わしを呼んだのはムサくてヒネこびた青髭のおっさんじゃ」 吸血鬼がため息をつく。 「私はそんなおっさんに呼び出されたと言うのに。 全くお前が羨ましい。 シュレディンガー」 それまで黙って話を聞いていたルイズに目を向ける。 「幼いながら大層なご活躍よの。 アルビオンの戦艦を落としも落としたり21隻。 おかげでレコン・キスタは北方の制空権を失って昔ながらの陣取りゲーム。 戦線より向こうの反乱蜂起を治めることもままならん。 火薬庫や鉱山もあっちこっち潰されて弾薬不足の物不足。 スカボローは連絡不通になって久しく、ダータルネスも時間の問題。 正規軍は二万近くもの欠員を出し、傭兵の賃金はうなぎのぼり。 戦場稼ぎどもは大喜びじゃろうのう。 南は南で「アルビオン解放戦線」のゲリラが 農民を中心に勢力を拡大するカトリック信者と手を結んで あの変な帽子が苦心してかけた洗脳をはしから解いて回る始末。 野火は南端の軍港ロサイスに迫る勢い。 今やこの浮き島は、あっちもこっちも死体の山じゃ。 いやはや、全く見事なお手前で」 「当然よ」 自分のもたらした戦火と被害が頭をよぎるが、 それでもその声は平静を保っている。 「レコン・キスタは、私の主の敵だもの! 主の敵を打ち倒すこと。 それこそが貴族の務めよ」 「ほう」 嬉しげににんまりと頬を上げる。 「あ奴の言うたとおりか。 幼いながら、は失礼であったの。 お詫びしよう、虚無の魔女殿」 軽く頭を下げ、ルイズの瞳を覗き込む。 「実にいい目をしておる。 世界の果てで覗いてきたのであろう? 虚無の深遠を」 ルイズの瞳の中に果ての無い闇が映りこむ。 「顕現しつつあるな、お主の中の虚無が。 成程、担い手に相応しい」 「担い手? 何の話!?」 睨み返しつつ、ルイズがアーカードに聞き返す。 「こちらの話さ。 それよりどうじゃ? 魔女殿。 この私を 使い魔 にしてみんか?」 「、、、、、。 はああ゛!?」 「なに、使い魔を2匹持ってはいかんという法もあるまい。 わしとしてもあんなおっさんよりお主の方が面白そうじゃ。 そもそもあのおっさんとは契約とやらもしとらんしの」 突然の展開に一人と一匹がうろたえる。 「ちょ、アーカード!?」 「なな、何言ってんのよ! アンタ私の敵でしょ!」 「え? 知らんよ? ワタシここにお呼ばれしとるだけで レコン・キスタとかじゃないですもの」 「じゃないですもの、じゃなくって!」 「んー、じゃあの」 アーカードがゆっくりとその手を差し出す。 「お主が私になる、というのはどうだ?」 その目が優しくルイズを見つめる。 その心の奥底を。 「私は吸血鬼だ。 だが吸血鬼たり得ない。 人から化物に成り果てたモノではなく、 人から切り離されたモノに過ぎぬからだ。 だからこそ、人が愛おしい。 だからこそ、人を知りたい」 アーカードの瞳が、ルイズ自身をとろとろと飲み込んでいく。 「私となれ。 私の力を与えよう。 夜を統べる力を。 死を統べる力を。 血を統べる力の全てを。 あの狂王のように、あの男にしたように。 私はお前を選ぼう。 だからお前は私を選べ。 私と一つになり、この御座に座れ。 そしてお前を教えてくれ。 私となれ、ルイズ。 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」 「私は、」 血の匂いが部屋に満ちてゆく。 あれほど渇望した「力」が今、目の前にある。 甘やかなその匂いに誘われるように、 ルイズはゆっくりと自らの手を伸ばす。 「私は、、、」 「駄目! ルイズ!!」 シュレディンガーが叫んだその時。 閉ざされていた扉が開け放たれ、十数人の兵士達が 部屋の中になだれ込み、テーブルの三人を囲む。 「シェフィールド殿」 怯えと、しかし決意のこもった声が響く。 兵達の向こうからクロムウェルが進み出る。 「今回ばかりはあなたに従う事は出来ません。 そこにいる虚無の魔女は、我らの悲願を妨げる者。 あなたには悪いが、今、この場で、禍根を断たせて頂く」 青ざめた顔で告げると、己の右手を振り上げる。 ゴズンッ。 突然に響いた低い金属音に、アーカードを除く全員の視線が集まった。 兵士の一人が宙に浮いている。 がらんっ、と音がして兜が床に落ち、不思議そうな表情をした顔が現れた。 兵士は自分の腹から生えた黒く細い棒のような物を見つめている。 それは床から伸びていて、自分の背中を刺し貫き天井を砕いていた。 何かを喋ろうとして、替わりにごぽり、と血の泡を口から溢れさせた。 「クロ~ムウェ~ル?」 椅子に座ったままのアーカードが首だけをかくりと後ろへ倒し、 何が起こったのかを理解できていない球帽の男へ目をやった。 椅子越しにさかさまになった少女のその頭からは黒髪がこぼれ、 串刺しになった男の下へと伸びている。 そして、他の兵士達の足元にも。 「私は客人の食事を持って来い、と言うたんじゃぞ? 私の食事を持ってきてどーする」 兵士の数だけの金属音と、悲鳴が響いた。 断末魔と、血の滴る音が部屋を包む。 「三度は言わんぞ? クロムウェル」 出来の悪い生徒に語りかける様に、呆れ顔で短く告げる。 クロムウェルはぺたんとその場に座り込むと、 蚊の鳴くような悲鳴を上げてずるずると廊下の向こうに消えていく。 兵士達の死体は影の中に飲み込まれ、消えた。 しかし穿たれた天井から落ちる石片と、何より部屋に立ち込める 濃密な血と臓腑の臭気が、今の出来事が現実だと告げている。 アーカードが席を立ち、ルイズへ歩み寄る。 「はっはっは、おっちょこちょいな奴でのう」 「貴方は私の敵よ、アーカード」 席を立ったルイズが、アーカードを見据える。 「貴方を私の使い魔になんてしない。 私は貴方と一つになんてならない。 レコン・キスタもウェールズ様も姫殿下も関係ない。 貴方は私の敵よ、アーカード」 「ほう、それは残念」 満足げな顔でアーカードが言う。 「そうか。 そうなのか。 お前がこの私を、打ち倒してくれるのか」 一歩。 一歩。 吸血鬼がルイズへ歩み寄る。 部屋の中に灯された明かりが、広がる影に殺される。 目の前の吸血鬼が、部屋に広がる闇そのものとなっていく。 「ええ。 その通りよ。 私が貴方を打ち倒すわ、吸血鬼(ヴァンパイア)」 飲まれず、逸らさず。 目の前に立ったアーカードの視線を ルイズは真正面から受け止める。 ふっ、と。 アーカードが目を閉じ軽い笑みを浮かべる。 闇の気配が薄らいでゆく。 「そうか、 それは楽しみだ。 とてもとても楽しみだ」 アーカードがうっとりと、楽しげにつぶやく。 その視線はルイズを見つめながらも、 遥か先へと向けられていた。 「ではその時を、 再び戦場でまみえるその時を楽しみに待つとしよう。 こんな借り物の闘争なぞでない。 私とお主との戦場(いくさば)でな、 虚無の魔女殿」 そう言うとアーカードはきびすを返し、 扉をくぐると廊下の先の闇へと溶けていった。 ルイズに差し出していたその手を背中越しに掲げて。 闇に消え入るその後姿をルイズは見送り、 シュレディンガーはにんまりと主人の横顔を見つめた。 「シュレ、、、」 気配の消えた廊下の先をじっと見つめたまま、 ルイズがシュレディンガーの袖口を掴む。 「うん! ルイズ」 シュレディンガーが誇らしげに返事をする。 「ぶふぇああ゛あ゛ぁぁ~~!!」 肺に溜まった空気を吐き出し、ルイズがその場にへたり込む。 「ごわ゛がったああ~~!」 「はいはい、よく頑張ったね~。 えらいえらい!」 シュレディンガーがニコニコとその頭をなでる。 座り込み、床を見つめたままルイズがつぶやく。 「シュレ、わたし、、強くなりたい」 その手を握り返し、シュレディンガーが応える。 「なれるよ、もちろん。 だって、ルイズはルイズだもの!」 。。 ゚○゚ 前ページ次ページ確率世界のヴァリエール
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前ページ次ページ確率世界のヴァリエール シュレディンガーの朝は早い。 日の出前には同じベッドで寝ているルイズを起こさぬ様に ゆっくりと起きだし、すばやく身支度と毛並みを整えると 同じくもう起きている他の使い魔達と中庭で遊ぶ。 ひとしきり遊び終えた後は早起きのオスマンの部屋に向かい、 お菓子をねだる。 今日はチョコレートクッキーのようだ。 食べ終わるとシエスタにルイズの洗濯物を洗ってもらい、 寝起きの悪いルイズを起こす。 食堂までルイズを届けた後はベッドで二度寝し、 皆が朝食をとり終えた頃、遅めの朝食を求めて 朝の忙しさからひと段落着いた厨房へと向かう。 「よう、来たか「我らが猫」! この食いすけめ! どうだ、「我らがミルク」は旨いか?」 「うん、美味し! マルトーおじさん、今日はボクお魚が食べたいナー」 「マルトーさん、その何にでも「我らが」を 付けるクセはやめて下さい」 シエスタがなぜか頬を赤らめる。 「所でマルトーおじさん、アレなあに?」 厨房の端に山と積まれた籠を指差す。 「あれか? 明日には「我らが姫様」がいらっしゃるからな。 心配するな、一番旨い部分はお前に取っといてやるから」 確率世界のヴァリエール - Cats in a Box - 第五話 「あ、あの、ミス・ヴァリエールでいらっしゃいますか?」 一日の授業を終えて夕食をとるルイズとその使い魔の前に 目を輝かせた女生徒二人が緊張した面持ちで立っている。 「伝説の『虚無』の系統を使われるとか! よろしければ、あの、握手をして頂けますか?!」 ルイズが仏頂面で握手をすると、感謝もそこそこに 黄色い声を上げて仲間の元へと走っていく。 「ぷっくく。 すっごいわねー、ルイズ。 モッテモテじゃな~い。 さすがは『虚無』ね」 隣に座るキュルケがにやけ顔で冷やかす。 虚無を始祖「も」使っていた珍しい系統、程度にしか知識を 持たない下級生から握手を求められるのは、これで三度目だった。 「んな訳判らんモンじゃないっつってるでしょ」 チキンを頬張りつつキュルケをギロリと睨む。 「あんたのせいであれから良い迷惑だわ」 ふてくされるルイズに、キュルケの向こうで モンモランシーといちゃつくギーシュが返す。 「なになに、虚無の力を恥じることは無いよ、ルイズ。 そう思えば魔法の覚えが遅いのも納得がいくと言うものさ」 「シュレちゃんのルーンが消えたりとかもね、ぷぷ」 モンモランシーが口に手を当てながら付け加える。 「虚無じゃないにしても滅っ茶苦茶でしょー、アレ。 コルベール先生も主人のメイジが死にでもしない限り 使い魔のルーンは消えるもんじゃないって言ってたわよ?」 モンモランシーが発した「死」という単語に、 反射的にあの音が脳内で再生される。 ( に ち っ ) 「うひゃっ」 思わず耳を塞ぐ。 「? どしたの?」 「な、何でもないわよ」 (見間違い見間違い、アレは見間違い) 心の中で唱えながら、かぶりを振る。 あれからどうにも寝付きが悪い。 「で、あんたら何やってんの?」 キュルケが尋ねたのは、いちゃつく二人が それぞれの使い魔を連れていたからだった。 「なんで、って明日は使い魔のお披露目会じゃあないか」 「で、その練習ってワケ? んなのテキトーにやりゃ良いじゃない」 「そりゃゲルマニアから来たキュルケにはどうでも良いかも 知んないけどね、アンリエッタ姫殿下がお見えになるのよ?」 「うそ?!」 ルイズが身を乗り出して聞き返す。 「嘘も何も、オールド・オスマンが授業中入ってきて 言ってたじゃない。 ゲルマニア訪問のお帰りから 急にこちらに立ち寄られる事になったって。 はっはーん、また寝てた?」 モンモランシーに返事も返さず、七面鳥のソテーと格闘する シュレディンガーの腕を腕を掴んで立ち上がる。 「シュレ、特訓よ!!」 。。 ゚○゚ 「う~ん、今いちインパクトが無いのよね~」 自分の部屋でルイズが腕を組む。 「え~?」 シュレディンガーが不満げな声を上げる。 「あんたの能力って、やってる事はすごいけど ハタから見ると、消えて出て、だけなのよね。 もっとこう、ビジュアル的なインパクトが欲しいわ」 椅子に腰掛けワインをあおる。 「インパクトかー、 何か取ってきたり?」 「例えば?」 「お姫様が来るんならー、 お姫様のカンムリとか?」 「ぶふうっ!」 飲んでいたワインを噴き出す。 「そんなことしたらその場でお手打ちよお手打ち! ああもうワインこぼれちゃったじゃない」 ワインを拭いた布をシュレディンガーに投げつける。 「シュレ、新しいワイン取ってきて。 こういうアイデアが必要な時には アルコール入れて脳ミソ回すのが一番よ」 ============================== 「たっだいまー」 「何よ、遅かったわね。 、、、何そのケース」 「お披露目会の事シエスタに話したら 貸してくれたんだー」 「シエスタ? ああ、食堂のメイドだっけ?」 ケースをルイズに渡すと、シュレディンガーは いそいそと二つのグラスを用意する。 「って何よこれ!」 ケースの中に入っていた衣装をみてルイズが驚く。 ルイズが広げて見せたそれは、カットも大胆な黒のビスチェだった。 ご丁寧に同じピンクのフリルの付いた黒のストッキングも入っている。 「従姉妹からもらった勝負服だって」 「コレ着ろっての? 却下よ却下」 「え~? せっかく貸してくれたのになー」 シュレディンガーがグラスのお酒をちびりとなめる。 「あら、これワインじゃ無いじゃない」 「えへへー、すっごい良い匂いでしょ」 小さな実が沢山漬け込まれた酒瓶を自慢げにかざす。 「そう? ちょっと薬臭くない?」 ルイズが怪訝そうな顔でグラスに口をつける。 「あら? 意外とイケるわね」 「でしょでしょ?」 「って、そんな事はどうでも良いのよ。 何か良いアイデア無いの?」 グラスをあおると、うーむと目をつぶって考え込む。 「ルイズルイズ~!」 「何? 何か思いついた?」 飲みかけたグラスを置いてシュレディンガーに向き直る。 「ジャ~ン!」 「ぶふうっ!」 飲んでいたお酒を噴き出す。 「 な ん で ア ン タ が 着 て ん の よ !!」 ルイズの目の前にはビスチェとストッキングを身にまとい 悩ましげにしなをつくる猫耳の使い魔がいた。 「だって~、 ご主人様が着ないって言うんなら~、 僕が着るしか~、無いじゃない?」 「何でそうなんのよ!! って、、あんた、酔ってない?」 グラスの半分も空けていないシュレディンガーの顔は 明らかに上気して、視線も定まっていない。 「酔って無(ら)いよ~?」 ぐびりとグラスの残りを飲み干す。 「飲むなっつうの!」 ハタと気付いたルイズの額に、たらりと冷や汗が流れる。 前にもあったシチュエーションだ。 しかも今度は酔っ払いモードだ。 このケダモノを野に放つわけにはいかない。 「い、意外と可愛いわねー。 やっぱり私も着てみたいから貸してくれる? ホラ、良い子だから」 こわばった笑顔でシュレディンガーににじり寄る。 「でしょ~? えへへ~。 でもでもご主人様ってば、 ボクとおんなじ位ムネ無いし~、 カップが余っちゃうかも~。 やっぱりシエスタって胸大きいよね~?」 隙間の開いたカップと胸元の間に人差し指を差し込んで クルクルと指を遊ばせる。 みしりと額に青筋が浮き出るも何とかこらえ、 ルイズが引きつった笑顔を作る。 「む、胸の大きさはどうでもいいのよー? キュルケみたいに大きい方がバカっぽいし。 じゃなくって、シュレが良く似合うから私も着てみたいのよ。 いいから早く脱ぎなさい、ね?」 「ホントに似合ってる~? やったぁ! うっれしいな~!」 猫耳をピコつかせニコニコとその場で回りだす。 「じゃあみんなにも見せてこよ~っと」 「ちょまっ?!」 ============================== がごす。 「うっふっふ、、」 テーブルの足に鼻っ柱をぶつけたまま低く笑う。 一人きりになった部屋の中、鼻血もぬぐわずゆっくりと立ち上がる。 「今度という今度は許さないわ、あんのバカ猫!!」 ドアを開けてキュルケが覗き込む。 「ま~たなにやってんのよ?」 。。 ゚○゚ 「おい、ここにあった「我らが酒ビン」はどうした?」 コック長のマルトー親父がおタマを持ったまま他のコックに尋ねる。 「ええと、さっきシュレさんが持って行ってましたけど?」 明日の食事会の為のテーブルクロスを抱えたシエスタが答える。 「おいおい、ありゃあ明日の為に買ってきた調理用のマタタビ酒だぞ? まったくあの食いすけめ」 。。 ゚○゚ 夕食も終わったアルヴィーズの食堂。 だが、明日の使い魔のお披露目会のアイデアを練る為、 ギーシュたちをはじめとする一部の生徒達は 自分の部屋に戻らずまだたむろを続けていた。 「そうそう、そうやってバラを咥えてポーズ。 よしよし、良い子だヴェルダンデ」 ギーシュがバラを咥えてほお擦りしてくる大モグラをなでる。 反対の席に座るケティが陶然とした顔でその光景を見ている。 「よだれ。」 ケティの横でタバサが本を読みながら突っ込む。 「はっ、す、すいません。 でもみなさん、遅くまで大変ですね」 「そうよー、ケティ。 一生一度の晴れ舞台なんだから。 あなたも来年大変よー? せいぜい頑張ってこの子みたくステキな使い魔を呼ぶ事ね」 そういって掌に載せた使い魔、カエルのロビンにキスをする。 「は、はい、モンモランシーお姉様。 私もシュレちゃんみたいな可愛い使い魔を呼べるように が、頑張ります」 「ホント? うれし~な~!」 その声に四人が振り返り、声を無くし固まる。 黒いビスチェにストッキングをまとったシュレディンガーが 上気した顔で嬉しそうに微笑んでいる。 「ええと、ネコ君? 君のー、その格好、、、は?」 「シエスタに借りたんだ~。 どう?ギ~シュ~。 可愛い?」 「いや、あの、、 酔ってるだろ君」 「でもでも、シエスタってばおっぱい大きいから~、 胸のとこが余っちゃっうんだよね~」 服と胸の隙間に人差し指を差し入れ、パコパコと 上下にカップを倒し、薄い胸をあらわにする。 「タバサお姉さま、鼻血、、」 ケティがタバサに耳打ちする。 タバサが血のしたたった本を置き、ハンカチで鼻をぬぐう。 それを見たモンモランシーが自分の鼻を確かめる。 「どうかな~? ギ~シュ。 やっぱり似合わないかナ~?」 シュレディンガーが後ろに組んだ手をモジモジと 動かしながら、寂しげな顔でギーシュを上目遣いに見る。 「い、いやいや、、 似合ってると、思う、よ?」 「やったあ! ギ~シュ、だ~い好き!!」「むぐっ?!」 うっちゅう~~。 「「「、、、」」」 三人が無言のままハンカチで鼻をぬぐった。 「だああ! 遅かった! って、何やってんのよ、あんたら! 見てないで止めなさいよ!」 ルイズの声に放心していた三人が我に返る。 「あらら、見事に出来上がってるわねー」 シュレディンガーを見たキュルケがあきれ返る。 「あ~、ルイズとキュルケだ~、お~い」 幸せそうな顔で目を回すギーシュにまたがったまま シュレディンガーがニコニコと手を振る。 「お~いじゃないわよ!!」 「まーま、ルイズ。 怒鳴ったってどうしようもないでしょ」 キュルケが手に持った酒ビンの蓋を開ける。 「おいでー、シュレちゃん。 お姉さんがキスしたげるから」 キュルケが微笑みながら手招きをする。 「わぁい♪」 シュレディンガーが駆け寄る。 キュルケが酒ビンを傾け口に含むとしゃがみ込む。 ぷちゅうう~~。 っぽん。 唇を離したシュレディンガーの顔がみるみる紅潮し、 頭から湯気を出してふにゃりと倒れ込む。 「ちょ、シュレ? あんた何飲ませてんのよ!」 「ウォッカ」 「ウォ、?! 、、、はぁ、まあ良いわ。 ほらシュレ、帰るわよ」 ぐいと顔を持ち上げるとキスをして、その場から消えた。 ============================== 「やれやれ、騒がしい事」 残されたキュルケがウォッカをぐびりとあおった。 。。 ゚○゚ 明けて、次の日。 「寝過ごした!!」 目が覚めたルイズが思わず叫ぶ。 疲れて寝て起きたら昼だった。 窓を開け中庭を覗くと、組まれた舞台の前には生徒が既に集まり、 舞台の脇にはアンリエッタ姫の姿も見える。 「何で起こさないのよ!!」 ベッドを見ると、自分の使い魔はまだ眠っている。 とりあえずベッドから蹴り落とし大急ぎで制服を着る。 シュレディンガーの方は、いつの間にやらいつもの服に着替えている。 「ん゛~、あだまいだい~」 やっと起き出した猫耳頭をわし掴むと、 「ほら、行くわよ!」 無理やりにキスをした。 ============================== 「って、なんで舞台上に上げてんのよ!」 突然の登場に笑いの起こる生徒達を無視して 横にいるシュレディンガーの頭をはたく。 「ホラ、降りるわよ!」 使い魔の手を引いて舞台から降りようとした時、 ルイズは場の雰囲気が変わっていく事に気付いた。 横のシュレディンガーを見る。 キラキラと瞳を輝かせて自分を見あげている。 「ミ、ミス・ヴァリエール? その頭、、、」 司会進行役なのか、舞台上にいたコルベールが おずおずと声をかけてくる。 「わ、寝グセ?!」 思わず頭に手をやる。 何かが手に触れた。 いや、ちがう。 頭の上にある「何か」に「手で触れらた」感触があった。 嫌な予感しかしない。 ざわり、と、会場が動く。 「、、耳だ、、」 男子生徒の誰かがつぶやく。 「ネコミミだ、、」 ウイルスのように潜伏していた感情が会場に広がる。 「ネコミミの、ルイズ、だ、、」 その感情は、シュレディンガーがこの学院に現れた時から、 ゆっくりと、しかし確実に、男子生徒の間に感染していった。 だが、その対象にその感情を表現する事は、余りにはばかられた。 「『ネコミミのルイズ』、、!」 だが、今、目の前にあるソレは、たしかに、確実に、 その感情を表現するにふさわしい者の上にあった。 『萌え』が、爆発した。 地響きの如く湧き上がる「ネッコミミ!!」コールに反応すら出来ず、 ルイズは突如自分に生えた猫耳を掴んで叫んだ。 「なんじゃこりゃあぁ?!!」 。。 ゚○゚ お披露目会の後のパーティもそこそこに 自分の部屋に帰ったルイズはため息をついた。 「はあぁ、もう。 今日ほど最悪な日は無いわ」 頭に生えた猫耳はそのままだ。 くたびれた様子でもそもそと服を脱ぎだす。 猫耳のまま共同浴場に行く勇気はさすがに無い。 「ルイズー、お湯持ってきたよー」 ポットを抱えたシュレディンガーが 部屋の中央に置かれたタライに湯を張る。 下着を脱ぎつつシュレディンガーを見る。 「ちょっとシュレ、もしかして私にシッポとか 生えて無いでしょうね? 触って確かめる勇気が無いわ」 「ん~? 大丈夫みたい。 てゆーか僕にもシッポは無いし~。ホラ。 心配し過ぎだってー、ルイズ。 ちょっと混ざっただけでしょお? そのうち戻るよ、多分。 まーボクはそのままの方が良いケドー」 「冗談じゃ無いわよ。 ふう、キモチ。 って、動きにくいわねさすがに。 シュレ、背中洗って。 部屋に泡飛ばしちゃ駄目よ」 「ハイハイご主人様」 「泡を飛ばすなっつったでしょ!」 「だってせまいんだもん!」 上半身裸で泡まみれのシュレディンガーが反論する。 「あーもー、タオル取ってきてタオル。 あとお湯追加ね」 「ハイハイルイズ様」 ============================== ポットを抱えたままシュレディンガーが消えると、 ひざを立ててズルズルとたらいの中に肩までつかり、 自分に生えた猫耳をつまんでみる。 「どーしたもんだかニャ~」 「なーにが「ニャ~」よ」 びくりと固まり、赤面しつつドアにもたれたキュルケをにらむ。 「な、なにをお風呂のぞいてんのよ! 非常識ね!」 「部屋ん中でお風呂入るあんたよりは常識あるわよ」 「で、何か用?」 無意識に猫耳を隠す。 「いや~、お風呂に誘おうか、って、思ったんだけど~、 、、、シュレちゃんは?」 「お湯取りに行ったけど? ってヤダ、キュルケ、鼻血でてる! はっは~ん、さてはこの私の悩ましいカラダに 悩殺されちゃった?」 手を頭の後ろに組み、無やましいカラダをくねらせる。 「キュルケ?」 小首をかしげたルイズの猫耳がピコリと動く。 「どしたの? 顔赤いわよ?」 キュルケの額にルイズが手を当てる。 二人の顔が近づく。 『何か』が切れる音がした。 キュルケがルイズの両腕をつかみ、ベッドに押し倒す。 「な、ちょ、キュルケ? やだ、冗談だってば!」 「冗談じゃあ無いわ」 低くつぶやく。 「なに怒ってんのよキュルケ?! め、目が怖いってば」 自分をベッドに押し倒し、真上からのしかかる級友の目は まるで石川賢のキャラの様に渦を巻いていた。 「あたしがどんだけ今まで我慢してきたと思ってんのよ。 ゲルマニアでどんだけ学校を替わったと思ってんのよ。 あたしも必死に変わろうとしたわよ。 自分は女なんだからって、何度も自分に言い聞かせて、 何人もの男と寝て、愛せる男を見つけようと努力したわよ」 「、、キュルケ、、、」 「でも、でも何でなのよ。 せっかくあんたとは友達になれると思ってたのに。 なってくれると信じてたのに。 なんで、あんたは、、、 そんなに、、、 そんなに、、、 可 愛 い の よ ? ! ! 」 「はああ?! な、なに言ってんのよ?!」 「何であんたはそんなに無防備なのよ?! タバサだってもうちょっと警戒心持ってるわよ! しかもなによこのネコミミは! 誘ってんの?!」 キュルケがシャンプーの残る猫耳をやわらかくはむ。 「ひゃんっ! なnな、なに、、噛むなあ!!」 「ああ、なんて可愛い声。 股ぐらがいきり立つわ、ルイズ」 予想外の展開にルイズが泣き笑いの顔でキュルケを見上げる。 「じょ、じょじょ、冗談でしょ?」 「理性の残ってるうちに謝っておくわ、ルイズ。 ごめんね。 い た だ き ま す 」 「ッッキャアー!!!」 ============================== 「あ」 ベッド上の二人が横を見ると、ポットとタオルを抱えた シュレディンガーが立っていた。 「しゅしゅshシュレ、、! た、たs」 「ありゃま、お邪魔かな? 散歩してくるね~、んじゃ」 「グッジョブよシュレちゃん」 ルイズの腕をがっちり掴んだままでキュルケがサムアップする。 ============================== 「あんのバカ猫ーーー!!!」 ガタンッ! 今度はベッドの横の窓が音を立てる。 「シュレっ?!」 ルイズがすがる思いで窓の外を見ると、 そこには真っ赤に茹で上がり目を回した顔があった。 「あ、あ、あの、、、 お、お取り込み中、、、です、かっ、、、? えーと、、あの、ルイズっ、、フラっ、、、 失 礼 し ま し た~、、、」 冠をかぶった頭が湯気を立てながらズルズルと窓の下へとさがっていく。 。。 ゚○゚ 「ひっひひ、姫殿下~~~?!」 前ページ次ページ確率世界のヴァリエール
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ロランドラヴァリエール(ロラン・ド・ラ・ヴァリエール) フランス王の系譜に登場する人物。 関連: フランソワーズルプロヴォ (フランソワーズ・ル・プロヴォ、妻) ルイーズドラヴァリエール (ルイーズ・ド・ラ・ヴァリエール、娘)
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ルイーズドラヴァリエール(ルイーズ・ド・ラ・ヴァリエール) フランス王の系譜に登場する人物。 ラ・ヴァリエール女公爵、ヴォージュール女公爵。 関連: ロランドラヴァリエール (ロラン・ド・ラ・ヴァリエール、父) フランソワーズルプロヴォ (フランソワーズ・ル・プロヴォ、母) ルイジュウヨンセイ (ルイ14世、夫) シャルル(14) (息子) フィリップ(17) (息子) マリーアンヌドブルボン (マリー・アンヌ・ド・ブルボン、娘) ルイドブルボン(3) (ルイ・ド・ブルボン、息子) 別名: フランソワーズルイーズドラボームルブラン (フランソワーズ・ルイーズ・ド・ラ・ボーム・ル・ブラン)
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前ページ次ページ確率世界のヴァリエール トリステイン魔法学院の地下深くに、低く強い発電機の唸りが響く。 「異世界文化研究室」と記されたその扉の奥では、コルベールが狂喜の笑みを浮かべ 「初めての工作キット:水中モーター」と書かれた紙箱を手に取っている。 そしてその隣、「異世界文化研究室・分室」と記された扉の奥で。 「すっごく似合うわ! シエスタ!!」 モンモランシーが喜びの声を上げ、タバサとケティがうんうんと満足げに頷く。 隣室から引かれたケーブルの先にある液晶モニタは大怪球フォーグラーの威容を映し、 その前にはポップなジャケットのDVDソフトがうず高く積まれている。 マンガ、アメコミ、バンドデシネにライトノベルにスラッシュノベル、 翻訳用の辞書辞典に不適切なタイトルの薄い冊子で満たされた本棚に囲まれた部屋の中央。 水兵風の上物と丈の短いスカートを着せられたシエスタは、困惑の笑みを浮かべていた。 その太股には何やら物騒な4本の刃物まで取り付けられている。 「あ、あの、皆様、これは、、、?」 「そうそう、最後の仕上げを忘れてたわ」 モンモランシーが口紅を取り出すと、鼻の稜線を横切る様にシエスタの顔に朱線を引く。 「さ、ここでさっき教えたキメ台詞よ、シエスタ!」 「は、臓物をブチ撒けろぉっ!!」 感嘆の拍手に包まれる中、シエスタは涙目の引きつり笑顔でフリーズするが、 ケティは無邪気にはしゃぎ回り、タバサは無言でインスタントカメラのシャッターを切る。 「良いわシエスタ! すっごく良い! 次はこれに着替えてみて!」 モンモランシーが鼻息荒くさらに露出度の高そうな妙にテカテカした衣装を差し出す。 「キメ台詞はこうよ。 『そうしろとささやくのよ、私のゴーストが』」 確率世界のヴァリエール - Cats in a Box - 第十一話 「枢機卿自らお出ましとはせいの出ることじゃな、鳥の骨」 「やかましいわ老いぼれめ、送ったものに目は通したか?」 午後の学院長室、小さなテーブルを挟みオスマンとマザリーニは椅子に座っている。 ワルドが差し出した紅茶を一口すすると、オスマンはふむう、とため息をつく。 「この戦争、勝ったな」 「やはりか」 その言葉とは裏腹に、二人の顔は晴れない。 「武力が均衡しアルビオンの戦況は膠着。 クロムウェルは神聖アルビオン共和国の初代皇帝への即位を表明、 貴族派の連中は正式に「レコン・キスタ」を名乗りこれを支持、か。 マッチポンプも良いトコじゃが、こりゃあ停戦交渉への前フリじゃろな」 「反乱軍のままでは格好もつかんからな。 しかしそれでも間が悪すぎよう」 「となれば今更「レコン・キスタ」を名乗る理由は一つ、尻尾切りじゃろうて。 あの貴族派連中が潰れればそれで「レコン・キスタ」は消滅、表向きはな。 後ろで糸を引いておった連中はまんまと逃げ切りという事じゃろう」 「やはりおぬしもそう思うか」 マザリーニが腕を組む。 「潜っておった間者達はどうなったんじゃ?」 「深く潜っておったものは、この子爵を除いて全て連絡が途絶えた。 貴族派連中の所に潜っておった者はそのままよ」 「ふん。 顔は立ててやるからこちらも手を引け、という所じゃろうな」 「腹立たしいが、こちらもそれに乗るほか無い。 後ろ盾の消えた貴族派連中を潰して、この戦争は幕よ」 「窮鼠猫の諺もあるぞい」 「分かっておるわ、説教くさいジジイめ。 首尾は上々よ。 のう、子爵」 マザリーニの後ろに立つワルドが会釈をし、小さく微笑む。 「は。 全ては来週、虚無の曜日に」 「ふん、いよいよこのトリステインも戦に加わるというわけか。 ああ、嫌じゃ嫌じゃ。 生臭い連中じゃ」 オスマンがしかめっ面でパタパタと手を扇ぐが、 マザリーニは嫌味を受け流してふてぶてしく笑う。 「ふん、何とでも言え。 このトリステインの国土を戦場にさせぬ為よ」 「物は言い様じゃな、これじゃから戦争好きは、、 ん? そう言えば来週の虚無の曜日といえば、 日食の日ではないか。 何とも不吉な日を」 「確かに不吉よ、貴族派の奴めらにとってな。 そうそう、虚無といえば。 虚無の魔女殿はどうしておられる?」 「息災にしておるぞ。 顔が割れてしまったことも、ミス・ヴァリエールの為には かえって良かったのかも知れん。 今更言うのも何じゃが、裏の世界の泥にまみれるには あの娘はまだ幼な過ぎる。 ここからの汚れ仕事はわしら老いぼれだけで充分よ」 オスマンが目を細め、窓の外に目をやる。 「確かにな」 マザリーニが席を離れ、窓辺に立って光さす中庭を眺める。 「友と過ごす若者の日々は短く儚い。 だからこそ、大切なものよ。 だからこそ、わしらが守らねばならん。 、、、例え、どのような事をしようともな」 遠くを見やるマザリーニの低いつぶやきに、 オスマンとワルドは黙ったままそれに応えた。 。。 ゚○゚ 「はあ? パーティ?」 突然の誘いにルイズは怪訝そうな顔をキュルケに向ける。 「そ、パーティ。 ほら、もう来週から学院も夏休みに入るじゃない? それでさ、タバサ達が張り切っちゃってんのよー。 アンタどうせ任務クビになって今ヒマなんでしょ?」 食堂外に設けられたカフェテラス。 その横の芝生ではフレイムとシュレディンガーが仲良く昼寝をしている。 向かいに座ってコーラを飲んでいるキュルケの話を聞きながら、 ルイズはソーセージが溺れるほどケチャップとマスタードをかけた ホットドッグにかぶりつくと、ソーダフロートでそれを流し込んだ。 添えてあるポテトフライにも救命胴衣が必要な程のケチャップがかけてある。 「クビじゃ無いわよ! 戦況が落ち着いてきたから、任務を一旦停止してるだけよ」 「敵の親玉に顔見られたって話じゃない?」 「あ、あれは不可抗力よ! っていうか、なに堂々と守秘義務違反してんのよ」 「神経質ねー、誰も聞いちゃ居ないわよ」 キュルケはタコヤキを頬張ると、中庭に並ぶパラソル付きのテーブルを見回す。 確かに、あちこちのテーブルで学生達がそれぞれの話題に花を咲かせているが、 誰もみな自分達のおしゃべりに夢中でこちらを気にしている様子は無い。 ルイズはため息を一つ付くと、キュルケが食べている青ノリまみれのソレを睨む。 「、、、何それ」 「これ? 案外イケるわよ、一つどう?」 「、、、パスするわ」 ルイズは自分達の周りのパラソルの中を覗き見る。 向こうではシェイクを飲みながら甘いソースのかかったポップコーンをつまんでいる。 その隣は生の魚介を使ったスシロールだ。 飲み物はペリエの様だが。 シュレディンガーが向こうの世界の食べ物を持ち込んでからというもの、 厨房ではちょっとしたルネッサンスが起こっている。 バリエーションが増えるのは結構だし、テラスでのランチも気持ちの良いものだが、 いかんせん安っぽいメニューが多すぎる。 物珍しいからって仮にも貴族としてそれはどうなのよ、と思いながら ルイズはもう一口ホットドッグをかじった。 「大体人のことクビだのなんだのって。 キュルケなんて何にもやってないじゃない」 「あーら、私はアンタみたいな荒事はやんないの。 出来るエージェントは任務をクールにスマートに、 そしてセクシーにこなすものよ?」 「、、、何よ、最後の「セクシー」って」 「聞きたい?」 自慢げに眉を上げるキュルケに辟易としている所へ、一人の女性が近づいてきた。 「ここに居られたか、ミス・ツェルプストー。 おや、ミス・ヴァリエールもご一緒か」 鎧姿も凛々しい若騎士にルイズは見覚えがあった。 「ああ、貴女は姫殿下の護衛の、えーと、、」 「あらー、アニエスじゃない? 今日はどうしたの?」 彼女に気付いたキュルケが声をかける。 「枢機卿の付き添いでな。 それと、その、、先日の礼を言いたくてな、ミス・ツェルプストー。 貴殿のお陰で憎きリッシュモンをこの手で始末することが出来た。 あれは我が故郷のかたきだった、貴殿には感謝をしてもし切れぬ」 「まあ、アニエス。 哀れなリッシュモン様はあくまで「事故」でお亡くなりになったのよ? 駄目よー? 今から国内で団結しようって時にそんな物騒なこと言っちゃ」 「ああ、そ、そうだったな。 すまぬ」 アニエスがなぜか頬を赤らめキュルケから視線を逸らす。 「しかし、任務の為とはいえ、本当に申し訳ない。 レコン・キスタとの内通の証拠を得る為とはいえ、、 あのような裏切り者と、その、、、」 「ふふ、あなたが謝るような事じゃ無いわ、アニエス。 私が好きでやった事よ」 キュルケがアニエスの手を優しく取る。 「う。 そ、それに、追っ手を巻く為とはいえ、、 その、成り行きとはいえ、、、 私なぞと、ああいう事に、、、」 「あら? 残念だわー、アニエス。 私はてっきり貴女があの夜の続きを しに来てくれたのかと思ってたのに」 「あー。 アンタがさっき言いかけた任務の話だけど、、 聞かなくてもどんなか大体分かったわ、キュルケ」 呆れ顔でルイズが二人を眺める。 その視線に我に返ったアニエスは慌てて襟を正す。 「と、ともかくだ! ミス・ツェルプストー。 貴殿には大きな借りが出来た。 私に出来ることがあれば、何でも良い。 遠慮なく申し出てくれ!」 まだ照れを残しながらも、アニエスが無骨に微笑む。 「んー、それじゃあ、、、」 キュルケがかわいらしく頬に指を当て考え込む。 「パーティがあるんだけど、今晩空いてる?」 。。 ゚○゚ 「こ、、れ、は、、、!」 アニエスは自分のあまりの格好に、羞恥の表情で立ち尽くす。 「まあ! トレビア~ン! と~っても良くお似合いよ、妖精さんったら!」 野太くくねる声が店内に響く。 トリステインの王都トリスタニア。 そのチクトンネ街にある『魅惑の妖精』亭の入り口には 「本日貸し切り」の札がかけてある。 「うん、アリね」 「ギャップ萌えですねー、タバサ姉さま」 すでに着替え済みのモンモランシーとケティが、感心しきりに スポットライトを浴びるステージ上のアニエスを見つめる。 タバサは無心にシャッターを切り続ける。 脂肪どころか余計な筋肉一つ無いそのしなやかで強靭な四肢は なめされ束ねられた革の鞭を思わせ、あちこちに走る古傷は その鍛え上げられた肉体が紛れも無い「実用品」である事を誇示している。 まとっているビスチェはサイズが少々合わなかったのか、 引き締まった腹筋と慎ましやかなおへそを外に晒してしまっている。 アニエスはそれを頑なに両手で隠しているが、過剰に付いたフリルや 頭のカチューシャと相まって、却ってその仕草を可愛らしく見せる。 「ミミミ、ミス・ツェルプストー? ここ、これはさすがに、、」 「駄~目、みんなおそろいの格好してるのに 貴女だけそのまま、な~んて通らないわよ~?」 かぶりつきではしゃぐモンモランシー、ケティ、タバサはもとより、 アニエスに声をかけるキュルケ、そしてルイズとシュレディンガーも それぞれの髪色に合わせた色とりどりのビスチェを身に着けている。 「さ! これで全員着替え終えたかしら? 妖精さんたち、『魅惑の妖精』亭へようこそ~! 今夜は貸し切りだから好きに使っていって頂戴ね! 可愛いシエスタのお友達ですもの、 う~んとサービスしちゃうわ~!」 店長のスカロンが腰をくねらせ満面の笑みで挨拶をする。 その横では娘のジェシカが従妹であるシエスタにサムアップする。 (ナイスよシエスタ! 新規顧客開発でお得意様ゲッツよ!) 「どーせこんなこったろうとは思ったわよ」 どうこう言うのをすでに諦めたルイズは、早くもテーブルについて 一人でワインを開けている。 「いーじゃんルイズ、せっかくなんだしー」 「アンタは良いわよシュレ、こういうカッコ似合うし」 笑顔でフリルのスカートをフリフリさせているシュレディンガーに ふてくされた表情で皮肉を言う。 「そんな事は無いよ、僕の小さなルイズ。 とっても似合っているよ」 背後からの優しい声にルイズが慌てて振り返る。 「ワワワ、ワルド様!? い、い、いらしていたんですか!?」 「学生ばっかってのもなんだし来て頂いたのよー、保護者ってやつね」 モンモランシーが声をかけてよこす。 「おや、迷惑だったかな?」 「めめ、迷惑だなんてそそそんな!! でもでも私、こういう格好ちっとも似合わないし、 胸だってその、、、」 ワルドが優しく笑いかける。 「さっきも言ったろう? ルイズ。 君が一番素敵だよ。 はっはっは。 時に店主、お手洗いはどちらかな?」 ルイズが照れるやらうっとりするやらで自失していると、 突然入り口の戸が叩かれた。 「モンモランシー。 僕だよー。 君のギーシュだよー。 今着いたよー。 開けておくれー」 「あら、もう着いたの? 早かったわね」 モンモランシーがフリフリと入り口へと向かい、外へ呼びかける。 「本当にー? 本当に本物のギーシュなのー? 本物のギーシュならこれができるハズです。 マリー・アントワネットのものまねー」 「誰だよ! 知らないよ!! 冗談はやめて開けておくれよモンモランシー!」 「ノリ悪いわねー、ハイハイ」 扉を開けると、外には衣装ケースを両手に抱えた ギーシュとマリコルヌが立っていた。 「ちょ、何で二人が来てるのよ! ていうかギーシュはまだ判るけど、なんでマリコルヌまで居るのよ!」 「ひどいなあルイズ。 この日の為に用意したコスを持ってきたんじゃないか。 僕だってタバサ達と同じく異世界文化研究会の一員なんだよ? 今日はその発表会なんだから。 って、こ、これは、、、」 中の様子を覗き込むなりマリコルヌは鼻の下を伸ばす。 「ああ、素敵だモンモランシー! ケティもとっても可愛いよ!」 ギーシュも入ってくるなり顔をゆるめる。 「全く、どいつもこいつも、、ちょっとはワルド様を見習いなさいよ! ホラ、賢者の様に悟りきった顔をしてるじゃない」 ルイズはそう言ってすっきりとした顔でカウンターに座るワルドを指差す。 タバサが無言でその表情をカメラに収めた。 「ああー、それがタバサが言ってた例のアレ?」 モンモランシーが衣装ケースをテーブルの上に置き開いてみせる。 「そ。 キュルケ、あなたの分もあるわよ」 「あら、そうなの? 私らはこのフリフリだけじゃ無いの?」 「このビスチェはこのお店の衣装なんですよ、キュルケお姉さま。 せっかくだからスカロンさんに貸してもらっちゃいましたけど、 本番はこちらなんですっ」 ケティが得意げに胸を張る。 「じゃあー、まずはこれからね!」 十数分後。 「私が死んでも替わりはいるもの。」 「ほーっほっほ! アンタバカぁ!?」 出てきたタバサとキュルケはぴったりとしたボディスーツに着替えている。 それぞれ白と赤とを基調とした光沢のあるスーツはボディラインも露わなもので、 特にこの世界では見慣れない透明な生地が使われた赤いキュルケの衣装は やたらと露出度の高い仕上がりになっていた。 「ほらケティも! 3人揃って1セットなんだから!」 「にゃ、にゃ~ん!」 「はっはっは、3人とも可愛らしいね。 時に店主、お手洗いはどちらだったかな?」 さらに十数分後。 「ガンダムにおヒゲはありますか!? ありません!!」 次に現れたモンモランシーはパラソルを持ってつばの広い帽子をかぶり、 白地にブルーのラインの入ったブラウスとスカートを着ていた。 「台詞が逆。」 「キエル・ハイムからキエル・ハイムへ、、、」 さらに十数分後。 「あたいったら最強ね。」 青いリボンを頭に付け、同じく青のワンピースを身にまとったタバサの背中には、 ウィンディ・アイシクルの魔法によって作られた氷の矢がきらめいている。 「な、なんかノリノリね、タバサ、、、」 「⑨。」 「うぇ!? 私の分もあるの!?」 「当ったり前でしょルイズ。 さ、こっちいらっしゃい」 さらに十数分後。 「あ、これ結構可愛いじゃない」 「でしょでしょ!?」 白地のスカートつきレオタードに紫のインナー、それに黒い子悪魔風のシッポ。 丸くて大きな白帽子には、シッポとおそろいの黒い羽根飾りが付いている。 くるりと回るとスカートがひらりと舞い、シッポが可愛らしく揺れる。 「このキャラのキメ台詞は~、」 「あ、やっぱそういうの有るんだ、、、」 「ん? 何か有ったっけ? タバサ」 「特に無い。」 「そう言えば無いですねー、お姉さま。 「リトリトー♪」とかですか?」 「じゃあそれで、ルイズ」 「、、、」 「じゃあ次はシエスタね!」 「モ、モンモランシーさん、私もやっぱりまたやるんですか?」 「当~然! 二着とも持ってきてるわよ~♪」 「わ、そうなの? 見たい見たい!」 「もう、ジェシカまでー」 「それじゃせっかくだしジェシカさんと一着づつね!」 「え? 私もいいんですか!? やったー!」 。。 ゚○゚ 「じゃあー、次は次はー」 ノリノリで衣装ケースを漁るモンモランシーを カウンター席でギーシュがニコニコと見守る。 「いやいや、皆が喜んでくれて嬉しいよ。 小物を作る手伝いをした甲斐があったというものさ」 「へー、ギーシュの錬金で? 再現度高いよ、やるね」 隣の席でマリコルヌが感心する。 「何コソコソ話してんのよソコー、いっやらしーわねー」 ワインで程よく出来上がったルイズがカウンターの二人を指差す。 「い、いやらしくないだろルイズ! 僕はただ純粋にコスプレの完成度を」 「鼻の下伸ばして何言ってんのよ、デブのくせに。 大体あんた達二人だけ、な~んで制服のまんまなのよ」 「い、いやいやルイズ? だってホラ、僕らは衣装もないし」 「あら~、ギーシュ? シュレちゃんだって きちんとドレスアップしてるじゃない。 ねえ?」 「ねー?」 「キュ、キュルケ!?」 「そういえばそれも不公平ねえ」 「モンモランシーまで!」 さっきまでギャラリー気取りだった二人を ビスチェ姿の妖精たちがやんやと囃し立てる。 「そー言う事ならお任せよ!!」 出番とばかりにスカロンが腰をくねらせやってくる。 「いや、店主? 僕らはこういう事は、、」 「あらいやだ、初めてなのね! 怖がる事無いのよー? お姉さんが優しくリードして、あ・げ・る! ジェシカ! シエスタ! いくわよ!!」 そして十数分後。 スポットライトの照らすステージにスカロンが現れる。 「はあーい、お待たせ致しましたー! このお店の新しい妖精さんを紹介しちゃいまーす、 ギーシェちゃんとー、 マリコレーヌちゃんでーす!!」 シエスタとジェシカに手を引かれてステージ上に現れた二人を 皆が拍手と喝采で迎える。 「わ、割とアリね」 「アリ。」 「大アリですねー、お姉さま」 かぶりつきの三人組が目を輝かせる。 「ギ、ギーシェ、です、、、」 覚悟を決め切れずに赤面したギーシュが金髪ロングストレートのウィッグを いつものクセでかき上げる。 男子生徒の中では細身のタイプとはいえ黄色いビスチェから出た広い肩は 大人へと成長する過程の力強さをしっかりと示しており、端正な顔立ちとの アンバランスなギャップが何ともいえぬ危うさを醸し出している。 その倒錯的な魅力にキュルケは自分の中の野獣が頭をもたげるのを感じ、 思わず唇を舐める。 「マ、マリコレーヌでぇす♪」 空色をしたセミロングパーマのウィッグをつけたマリコルヌは、 そのふんわりとした髪とふくよかなボディラインも相まって まるで違和感なく淡いブルーのビスチェを着こなしている。 照れながらも満更でもなさそうなその表情は、恥じらう乙女そのものだ。 とても男性とは思えないそのきめ細やかな肌と豊満な胸に ルイズも思わず息を呑む。 。。 ゚○゚ 「はーい妖精さんたち、クックベリーパイが焼けたわよー」 「スカロンさんありがと! それ私大好き!」 スカロンとジェシカが運んできた焼きたてのパイにルイズがかぶり付く。 「ん~、おいし」 「あ、あふい」 熱々のパイを持て余すシュレディンガーの向こうでは、 ギーシェとマリコレーヌを三人組がいじり倒している。 「なんのかんの言って、来て良かったでしょ?」 「ま、ね」 隣のキュルケに返事をしつつ、伸びを一つする。 「ここんトコ、色々と忙しかったからねー。 あちこち飛び回って、船落っことして、要塞潰して、 シュレと一緒に、いろんな所を見て回って、、、」 ネコ舌を火傷して涙目になりながらもパイをかじる猫耳頭を眺める。 「な~に急にしんみりしちゃってんのよ。 おヒマもらって気が抜けちゃった?」 キュルケが肘でルイズをつつく。 「ふう、そんなんじゃないんだけどさー、、、 もうすぐ夏休みだし、しばらく皆とも会えないんだな、、、って」 「ぷふっ、ルイズらしくないわね~、夏休みなんてあっという間よ。 アンタのバストが10分の1サント膨らむ間も無いって」 キュルケがぺたりとルイズの胸に手を当てる。 「あら? ごめんなさい。 こっち背中だっけ?」 思わず腕で胸を隠し立ち上がる。 「な゛っ!! 誰の胸が背中よ! 膨らんでるっつーの! 日々成長してるっっつーの!! アンタは大体あれよ昔っから! おちちが大きけりゃ偉いってもんじゃ無いでしょ!!」 「偉いか偉くないかは知らないけどぉ~、 貴女みたいなお子ちゃまよりは、女らしくは、あるわよねぇ」 キュルケが自信満々に立ち上がり、ビスチェからこぼれる たわわな果実をルイズの前に見せ付ける。 「アンタのは「女らしい」じゃなくって「はしたない」でしょ、 この淫乱牝牛!!」 「ま、まあまあルイズさん落ち着いて」 「ぬぐっ、ア、アンタも敵よシエスタ! おちちの大きさで女の価値が決まるとでも思ってんの!?」 うっかりなだめに入ったシエスタにも飛び火する。 「ああーん、壁のように立ちはだかる運命に立ち向かう 乙女の姿って、いつ見ても美しいものねえ」 スカロンがうっとりと腰をくねらせる。 「むしろ壁のように立ちはだかった膨らみにこそ 乙女の美しさがあるとは思わないかね? 店主」 「と、特殊な趣味をお持ちなんですね、子爵様」 拳を握り力説するワルドに、ジェシカがあきれ声をかける。 「と、とにかくあんたらおっぱいおばけに 私たちは負けないわ!」 「ちょっとルイズ、何よその「私たち」って。 何さらっと私を貧乳組に入れてんのよ!」 心外だとばかりにガタリとモンモランシーが立ち上がる。 「アンタだって似たようなもんでしょモンモランシー。 どー見たってマリコルヌより小さいじゃない」 「アンタよりマシよ! って、何笑ってんのよマリコレーヌちゃあん!?」 「ぼぼぼ僕は別にあふぅんっ!?」 突然に豊満な胸を鷲掴みにされたマリコルヌが艶っぽい声を上げる。 鷲掴んだタバサは神妙な顔でマリコルヌと自分の胸を揉み比べる。 その横でケティも羨ましげにじりじりと手を伸ばす。 「ママー、やってるー?」 やたら緊迫した空気の中、入口の扉が突然開いて陽気な声がホールに響く。 皆が振り向くと、ほろ酔い顔の二人の男が店内を覗き込んでいる。 「あらー、御免なさい。 今日は貸切なのよ。 男の子達が入って来た時に鍵をかけ忘れちゃったのね」 「ちょっと待って、スカロンさん。 いいえ、ミ・マドモワゼル」 キュルケがにんまりと笑ってスカロンの手を止める。 「ルイズ、女の価値はお乳の大きさじゃ決まらないんでしょう? だったらこの殿方達にどちらが女としての魅力があるか、 公平に決めてもらおうじゃない?」 「はああ゛!? なな、何言ってんのよ」 「あらら、御免なさいな。 やっぱり止めておきましょう、スカロンさん。 こんな結果の見えてる勝負なんて、余りにフェアじゃ無いものね」 「なにが結果が見えてるってのよ! 私がアンタなんかに負けるって言うの!?」 「そうねー、貴女みたいなお子ちゃまや、 衣装を着ただけで満足しちゃってるモンモランシーよりは、、、 ま、自信はあるわね」 モンモランシーがゆっくりと振り返る。 「ほほーう、言うじゃないのキュルケ。 そういうのって、レイヤーとして見逃せる発言じゃあないのよね」 ルイズ、キュルケ、モンモランシー。 仁王立ちのままの3人が、火花を散らして睨みあう。 「良いわ、誰が一番売り上げを上げれるか勝負って事ね。 『魅惑の妖精』亭、開店よ! ミ・マドモワゼル!!」 。。 ゚○゚ 「いらっしゃいませ、ご主人様。」 「いらっしゃーい!」 シエスタのメイド服を着込んだタバサとシュレディンガーが会釈をする。 「いやー、初々しいねえスカロンさん」 タバサにお酌をされている席の男が鼻を伸ばす。 「うふふ、今日の妖精さんはみーんな研修中の新人さんなのよー。 優しくしてあげてねー?」 スカロンが声をかけると忙しげに他のテーブルへ向かう。 「しっかし思ったよりやるねえ、あの娘」 慣れぬ皆のフォローをするジェシカが、思わずタバサに感心する。 「ああいうのが受けるのかしら? 参考にしなきゃ」 「うーん、思わぬ強敵ね」 早々に酔っ払いを殴り飛ばし待機中のルイズがタバサを眺め唸る。 「アンタは論外でしょ」 同じく客に水を引っ掛けベンチ待機のモンモランシーがため息をつく。 「ルイズさん、モンモランシーさん、 ケティさんのテーブルにヘルプお願いしまーす」 両手で器用に料理を運ぶシエスタが二人に声をかける。 「よっし、リベンジよ!」 「逞しいねえお姉ちゃん、普段何やってんの?」 「いや、あの、その、剣術を少々、、、」 何が何やらまだ飲み込めないアニエスがこわばった顔で答える。 (せ、戦場で剣を振っていた方が、どんなに気楽な事か、、、) 隣のキュルケに目で助けを請うが、Sっ気たっぷりの笑顔で拒否される。 「御免なさいね~、この娘ったら殿方との触れ合いに慣れていないんですの」 火照った顔で微笑み、キュルケが客にしだれかかる。 「さ、それよりもう一杯」 「そうねー、頼んじゃおっかな!」 「ぽっちゃりして可愛いねえ君、なんていうの?」 「マ、マリコレーヌでぇす! よろしくね、おじさま」 「あ、お水が無くなってるね。 ぼ、私がお水を取ってきますわ」 席を立とうとするその腕を涙目のマリコルヌに掴まれる。 「何逃げようとしてるのかな? かな? ギーシェちゃあーん」 「今どんな調子かしら~? ジェシカ」 調理場のスカロンがお盆を下げてきたジェシカに尋ねる。 「そうね、やっぱり強いのはキュルケちゃんね。 明日からでもウチに欲しいくらい。 でも2位につけてるのがタバサちゃんってのが意外ね。 あとマリコレーヌちゃんとシュレちゃんが結構来てる。 あの二人、ビジネスチャンスの香りがするわ」 腕を組んだジェシカが不敵に笑う。 「トレビア~ン! 我が娘ながら目ざといわね。 はい、出来あがりよ。 コレ2番テーブルにお願い」 「はいなっ!」 またも客に手を出しベンチ入りのルイズにシエスタが声をかける。 「ルイズさん、いけます? あちらの奥の女性のお客様なんですけど」 「女性~? むー、まあ良いわ。 お客はお客よ!」 シエスタからお冷を受け取ると、奥のテーブルへのっしのっしと向かう。 「い、いらっしゃいませー、お客さまー」 「おお、魔女殿。 久しいの」 どがしゃ。 ルイズが派手にすっ転び、隣のハゲに水をぶちまける。 「あああ、アンタがナンでココに!?」 悠然と椅子に座る白づくめの少女を睨みつける。 「いやなに、しばらくヒマだったからあちこちうろついておったら 何やら覚えのある気配を感じての」 「どーしたのルイぶうっ!?」 駆け寄ったシュレディンガーが思わず噴き出す。 「で、ここでやろうっていうの? アーカード!」 ルイズがストッキングに隠した杖を後ろ手でまさぐる。 「相変わらず物騒じゃの、魔女殿。 私は次に戦場(いくさば)で会う時に、と言うたろ? こんな所で杖を抜こうとは。 やれやれ、ここは戦場ではあるまいに」 アーカードがやれやれと肩をすくめる。 「あ、アンタが言うな!」 怒鳴りつけるルイズを、後ろからの手が押し留める。 「何処の誰かは知らないけれど、それは聞き捨てならないわね。 ここはね、女のプライドをかけた、まごう事なき戦場なのよ!」 モンモランシーが胸を張ってアーカードに言い放つ。 「ほう、そうか、、、 ここは戦場(いくさば)か」 アーカードが小さく笑いながら、ゆっくりと立ち上がる。 「ちょ、バカ! モンモランシー!」 モンモランシーを後ろ手に庇い、隠した杖を抜き放つ。 「それでは、あの時の約束を、、果たさねばならぬのう、、、」 ざわり、とアーカードの長い髪がうごめく。 「みんな、伏せて!!」 叫び身構えるルイズの目の前でアーカードがゆっくりと宙に浮き、 優雅に蠢く髪の毛がまるで繭のように全身を包み込む。 その場の全員が驚きの声と共に宙に浮いたその繭を見つめる。 繭が脈動と共にひび割れ、中から眩い輝きがこぼれ出した。 皆が息を呑み見守る中、その繭がついに割れる。 舞い散る白い羽根と共に現れたアーカードは その身に純白のビスチェをまとっていた。 「はああぁ~~!?」 ルイズが素っ頓狂な声をあげ、店内が喝采の渦に包まれる中、 ふわりとアーカードが舞い降りる。 ルイズの着ているピンクのビスチェとデザイン自体は全く同じだが、 毛皮の帽子はそのままで、床に届きそうなファーを首からかけている。 純白の羽毛が舞い散る中、ファーを巻いた腕をルイズに差し出し うっとりと微笑みかける。 「さあ、戦争の時間だ」 † 「さ、3番テーブルにボトルもう一本はいりまーす!」 「ちょっと、アレ反則でしょ!」 ルイズがジェシカを呼び止めて、でっぷりと太った貴族の横で 足を組んでゆったりと哂うアーカードを指差す。 「さあ、もう一本だ」 「し、しかしね、アーカードちゃん」 「問題ない」 「で、でもねえ」 「なにも 問題は ない」 その指先で貴族の唇をなぞる。 「そうねえ! 問題ないねえ! おーい、アーカードちゃんの為にもう一本追加だ!」 巨体を揺らし、でれでれとした声で貴族が注文を入れる。 「ホラあれ! 絶対エロ光線か何かよ!!」 必死に訴えるルイズの両肩にジェシカが手を置く。 「悲しいけどコレ、戦争なのよね」 きっぱりと言い切ると嬉々とした表情で厨房へ駆けていく。 「ボトルもう一本追加でーす!」 「マズいわ、女云々じゃなくマズいわ。 このままアーカードに負けたら、 何というか、人間として駄目な気がするわ」 ベンチ席で歯噛みするルイズの手にそっと手が重ねられた。 涙目で見上げたルイズの目に、優しい微笑みが映る。 「心配しないで、可愛いルイズ。 この私が居るじゃあないか」 「ワ、ワルド様!」 「さあ、ボトルをもう一本追加だ! 皆、今日は私の奢りだ、存分に飲んでくれ給え!」 沸きあがる歓声に応えながら、隣席を不敵に見下ろしつつワルドは悠然と席に着く。 「ほう、チクトンネの帝王と呼ばれたこのチュレンヌに 喧嘩を売るとは、何とも物を知らぬ田舎騎士が居たものだ」 「ほほう、貴方があのチュレンヌ様でいらっしゃるか。 徴税官の立場を使いタダ酒をあおるのに慣れておいでなのでしょう? 申し訳ないが、このワルドの相手ではありませんな」 「貴殿が鳥の骨の腰ぎんちゃくか! いやいやこれは失敬。 だが、この私を舐めてもらっては、困る」 チュレンヌが手を叩くと、部下がドチャリと金貨袋をテーブルに置く。 「ボトルを追加だ!!」 店内にチュレンヌコールが巻き起こる。 「ワ、ワルド様!?」 「はっはっは、だ大丈夫だよ僕の可愛いいルイズ。 時に店主、ツケは」「利きません」 「どうしたね? もう終わりかね?」 ニヤ付くチュレンヌへ颯爽と向き直ると、 ワルドは自分の袖口のボタンを一つ千切り、テーブルに置く。 「ん? 何のマネ、、、これは!?」 「職務上、旅先で物入りな時の為の非常用に、ね」 ボタンの中央には光り輝く大粒のルビーがはめ込まれている。 「そこの君、これを換金してきてくれまいか? そしてその金で、、、ボトルを追加だ!!」 まさかの返し技に店内が沸き返る。 チクトンネの全ての酔っ払いが集まったかの様な喧騒と歓声の渦の中、 漢たちの魂の絶叫が店内にこだまする。 「もう一本!」 「もう一本!」 「もう一本だ!」 「もう一本じゃ!」 「くっ、もう一本!」 「えーい、もう一本!」 「もう、もう一本だぁ!!」 そして、オーダーストップを告げるスカロンの声が響く時、 明らかに一店舗のストック量を超える膨大な数の空ボトルに囲まれて 真っ白に燃え尽きた二人の男に、惜しみない拍手が送られた。 「ええ゛~~、同点?」 不満げなルイズをよそに、ホクホク顔のスカロンが伝票を読み上げる。 「そ、ピッタリカッチリビタ1エキュー変わらず同じよ。 という事で、この売り上げ勝負の優勝はあ~、 同率一位でルイズちゃんとアーカードちゃ~ん!! とってもとっても、トレビア~~ン!!」 「な、納得いかないわ!」 「ま~ま、もうどうでも良いじゃ無~い」 すっかり出来上がったキュルケがルイズに抱きつく。 「そうよ~、大体アンタ何もしてないじゃない」 モンモランシーも呆れ顔で死屍累々たる店内のザマを見回す。 「魔女殿、中々面白い余興だったぞ。 それではまた会おう」 アーカードはそう言うと帰りを惜しむ酔っ払いたちの拍手の中、 ファーをなびかせてビスチェ姿のまま夜の街へと消えていった。 「アーカード、次は負けないわ、、、」 シリアスな顔で決めるルイズにアニエスがおずおずと声をかける。 「すまぬが、ミス・ヴァリエール。 ずっとあの少女の名前が気になっていたんだが。 もしかして、あれはあの報告書にあった、、、」 「うんそう、『死の河』」 「やっぱり」 得体の知れぬガッカリ感にまみれながら アニエスは心に強く思うのだった。 (、、、早く帰りたい) 。。 ゚○゚ 前ページ次ページ確率世界のヴァリエール
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前ページ次ページ確率世界のヴァリエール 「左手は添えるだけ。」 「こ、こう?!」 タバサの声に緊張の面持ちでルイズが応える。 初夏の日差しが照りつけ始めたトリステイン魔法学院の中庭。 シュレディンガー、キュルケ、シエスタ、ギーシュ、 モンモランシー、ケティ、それにマリコルヌ。 いつもの面子が顔を揃え二人を見守っていた。 「そして詠唱。」 「よ、よしっ!」 ルイズがきりりと眉を上げ、杖を振るう。 「イル・フル・デラ・ソル・ウィンデ!」 ふわり、とルイズの体が宙に浮かぶ。 「や! や? やたっ!」 慣れない浮遊感に思わず内股になりつつも、ルイズは 離れていく地面を見つめ両手をぴんと横に突っ張ったまま快哉を叫ぶ。 「どう? どう?! どうよ! 浮いたわ私! すごいわ私!!」 「わ! わ! 浮いてますわお姉さま!」 「ちょ! 待って、浮いてるってルイズ!」 「きゃあ!? う、浮いちゃってますルイズさん!」 周りから上がる悲鳴とも歓声ともつかぬ声にも目を向ける余裕は無い。 「だから浮いてるって言ってるでしょ! フライ(飛行)の魔法は成功よ!」 「そうじゃなくて、こっち!」 慌てふためくキュルケの声にルイズが顔を上げると、 そこには宙に体を浮かせばたつく皆の姿があった。 「何で私たちまで浮かせてんのよ!!」 「おお」 「おお、じゃないっ!」 。。 ゚○゚ 「次は僕が教師役だね」 丸テーブルの上の小石を前に、ルイズはギーシュへ胸を張る。 「任せて、錬金の魔法は得意よ!」 「ルイズちゃん、教室を等価交換して瓦礫の山に換えるのは 錬金って言わないからね? 念のため」 「判ってるわよ!」 茶々を入れるキュルケを睨み付ける。 「じゃあ、僭越ながらまずはお手本という事で」 ギーシュが詠唱とともに杖を振るうと小石が緑色に輝き出す。 「おお~!」 「お粗末」 一礼するギーシュが錬金で作り出したのは、 多少の曇りはあれど紛れも無いエメラルドだった。 「じゃ、じゃあ次は私ね!」 「何でも良いんだルイズ、このエメラルドを見て 頭の中に浮かんだものを、心に強く思い描いて」 「よ、よーしっ!」 目をつぶり、精神を集中する。 「イル・アース・デルっ!」 げこげこ。 さっきまでエメラルドだったそれが足を生やして跳び跳ねる。 「っきゃあー!」 「せ、生命を練成した?! 等価交換の法則はあ?!」 「だって何だかカエルっぽかったから! カエルっぽかったから!」 ルイズの言い訳も空しく、緑のカエルはテーブルの周りを跳び回る。 「ま、まさに黄金体験ですわお姉さま!」 「マリコルヌ、シャベルよ! シャベルでアタックよ!」 「やだよモンモランシー! それ涙目のルカじゃないか!」 。。 ゚○゚ 「、、今度は真面目にやってよね、ルイズ」 ルイズがモンモランシーに向かって頬を膨らませる。 「失礼ね! 私はいつだって100パー真面目だっつうの!」 「はあ、、、まあいいわ」 モンモランシーはため息を一つつくと、 シエスタから受け取ったグラスをテーブルの上に置いた。 「この魔法は水系統の初歩の初歩。 コンデンセイション(凝縮)よ」 詠唱とともにモンモランシーがグラスに杖をかざす。 グラスの内側に水滴が浮かび、流れ溜まってグラスを満たしていく。 「ま、ざっとこんなものよ」 「うーん、地味ね」 「あ、あんたねえ、、、」 眉をヒクつかせるモンモランシーにルイズが見得を切る。 「こんな地味魔法、楽勝よ!」 「、、、で、まだ?」 「も、もうちょっと待ちなさいよ!」 あきれ声を上げるモンモランシーにルイズは振り向きもしない。 詠唱を終えグラスに向けた杖に力を込めるが、何の変化も現れない。 「ぬ、ぬうう、、」 ごぽり。 グラスに溜まった水の中に気泡が上がる。 「な、何これ? 水の中に何か、、」 「水の中に不純物、ルイズの念は具現化系。」 「水見式か! 、、、ってタバサ、これ?!」 げこげこ。 グラスを挟んでモンモランシーとルイズがにらみ合う。 「何であんたはカエルにこだわる!」 「わ、私だって知らないわよ!」 。。 ゚○゚ 「はーい、みなさん。 このあたりで一休みしましょう」 パラソルの付いたテーブルに退避した皆に シエスタが色とりどりのシャーベットを配る。 氷の魔法で作るのを手伝ったタバサの前には どんぶりサイズの特大シャーベットが置かれた。 その隣にはシルフィード用の飼い葉桶いっぱいのシャーベット。 「んはあ~」 いち早くクックベリーのシャーベットをゲットしたルイズは さっそく一口ほお張ると至福の表情を浮かべる。 「すごいやルイズ、本物の魔法使いみたいだったよ!」 「はっはっは、もっと褒めていいわよシュレディンガー。 あと本物みたい、じゃなくて本物だから。 すでに。 まさに。 ガチに。」 鼻高々に背もたれにふんぞり返る自分の主人を シュレディンガーがニコニコしながらうちわで扇ぐ。 「な~に威張りくさってんのよ。 私の目には失敗のバリエーションが増えただけにしか 写らないんだけど?」 「ふっふっふ、言ってなさい」 隣のテーブルからのキュルケの声も今日は軽く受け流す。 「他の魔法はいいけどさ、私の時はちゃんと成功させてよ? 炎の魔法でさっきみたいな失敗なんて想像したくも無いわ。 地獄絵図よ、ヘルピクチャーよ」 「安心なさいなキュルケ。 どんな事があろうとあんたにだけは魔法習わないから。 今日のあんたは天才の開花を見守る単なるギャラリーよ!」 「な、何よソレ」 休憩を終え、日差しの強くなった中庭で。 ルイズがタバサの指導の下、サイレントの魔法で なぜか巨大竜巻を発生させ学院長の像をなぎ倒しているのを 遠めに見ながら、パラソルの下でキュルケはつぶやく。 「、、、ま。 今までの爆発オチから比べれば、格段の進歩ではあるケドね」 それはキュルケも認めざるを得ないようだ。 「しっかしあの娘が本当に虚無の系統だったとはね~」 日差しにダレるフレイムの口もとへシャーベットを一さじ運ぶ。 仰向けに寝転んだヴェルダンデのお腹を撫でながらギーシュが答える。 「何だい、君は信じていなかったのかい? 『虚無のルイズ』なんて二つ名を名付けたのは君だろうに」 「あれはほんの冗談で、、って、ギーシュ。 あなた最初から虚無だって思ってたの?」 「勿論」 事もなげにギーシュが返事をする。 「ギーシュ! 錬金!錬金! ルイズが学院長の像を錬金で直そうとしてるから! その前に早く!」 「おお、それは大変」 モンモランシーの叫びにギーシュは腰を上げる。 モンモランシーにどういう意味かと詰め寄るルイズを皆がなだめ、 ギーシュが悪趣味にもバラの花束を背後に背負わせた学院長の像を 錬金で作り直すのを眺めながら、キュルケはあくびを一つする。 「ふわ。 、、、平和だわね」 その横でフレイムも貰いあくびを一つした。 。。 ゚○゚ 同日、同時刻。 浮遊大陸アルビオンの東端、ニューカッスル。 戦火の傷を晒したままのその古城の地下、隠された空中港の桟橋で 二人の男たちが今まさに邂逅を果たしていた。 「やっと会えたな、子爵」 アルビオン王国皇太子、『プリンス・オブ・ウェールズ』 ウェールズ・テューダー。 「光栄の至り、殿下」 トリステイン王国グリフォン隊隊長にしてゼロ機関機関長。 ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。 居並ぶ歴戦の兵たちが見守る中、 彼らは固い握手を交わした。 「して殿下、状況は?」 石造りの長い階段を上りながら、ワルドが尋ねる。 「明後日には停戦会議を控えているしな、 あちらも下手に動く事はできんのだろう。 しかし子爵、私は今でも悩んでいるのだ。 他に選択肢は無かったのか、とな」 「心中、お察し致します。 しかし殿下とて、奴らが素直に会議の席に着くとは お思いではないのでしょう?」 「確かに、な」 「それに今や我がトリステインはアルビオンと一蓮托生。 アルビオンの危機は即ちトリステインの危機でもあるのです。 殿下がお気に病む事は御座いません」 「そう言ってくれると、幾らか気は休まるがな」 急な階段は螺旋を描き、上へ上へと続いていく。 「明日」 ワルドが声のトーンを落とす。 前後について階段を上る衛兵たちはこの会話が極秘のものである事を 悟り、歩調をずらし距離を取る。 「レコン・キスタの中でもトリステインに私怨を持つ者達が 『今回の停戦合意に反対』し、ロサイスにて軍艦を強奪 トリスタニアを目指しダングルテールへ降下します」 「、、、」 その扇動役を誰が担うのか、聞かずともウェールズは承知している。 「しかし、『偶然』ダングルテール付近で演習中であった トリステイン軍二個師団と遭遇、交戦状態となります。 軍艦と言えど相手は二個師団、判刻と持たずカタは付きましょう」 「トリステインの民に、被害が及ぶ心配は?」 ウェールズが尋ねる。 「その心配は御座いません、殿下。 ダングルテールは20年以上も前に見捨てられた土地です」 ワルドはその経緯について語ろうとはしない。 「国土への侵攻を理由にトリステインは即日レコン・キスタへ 宣戦布告、殿下には停戦会議を破棄して頂きます。 トリステインとアルビオンは連合を組み、既にラ・ロシェールに 停泊させてある艦全てが即時アルビオンへと上陸いたします」 潜められたワルドの声を消すように、足音が螺旋の空間に響く。 「さらにアルビオン南部で活動している『アルビオン解放戦線』と カトリック教徒達には、混乱に乗じてそのまま ロサイスを攻め落としてもらいます」 「そうなれば残るはサウスゴータとロンディニウムのみ、か」 「左様で」 清廉潔白を絵に描いたようなアルビオン皇太子の顔が 何ともいえぬ影を帯びる。 「すまぬな、子爵。 そのような汚れ役を貴殿にばかり押し付ける」 「勿体無いお言葉。 それより殿下、この事は」 先を行くウェールズの背をワルドの視線が射抜く。 「無論だ。 全てはアルビオンの民の為。 今の話は私一人、墓の下まで持っていこう」 ウェールズは自嘲気味に微笑んだ。 階段の先から日の光が差し込んでくる。 階段を上り終えるとウェールズは廊下を外れ、テラスへと出た。 涼やかな風がウェールズの髪をかき上げる。 手すりに手を突き、遠くを見つめたままウェールズが言う。 「子爵。 この戦が終わり、アルビオンに再び平和が戻ったその時には、、、 貴殿と、もう一度会ってみたい。 今度は酒でも飲みながらな。 だから、、、死ぬなよ。 生きて戻ってくれ、ワルド」 ワルドは顔を伏せたまま、かすかに肩を震わせた。 「は、、、 はっ! 必ず」 。。 ゚○゚ 「ルイズー、ぼちぼち時間なんじゃないのー?」 日も傾きかけた魔法学院の中庭で、キュルケがパラソルの下から だれた声をかけて寄こす。 「え、何? ちょっと待ってて!」 ルイズの作り出した青白い雲を吸い込んだシルフィードの目がとろけ、 見上げるルイズの前でこっくりこっくりと船を漕ぎ出す。 「おお、やたっ! スリープ・クラウド成功でぎゃふんっっ!!」 勢いを付けて大きく船を漕いだシルフィードの頭が脳天へ直撃し、 ルイズは頭を押さえしゃがみ込む。 「、、、なにやってんのよあの娘は」 キュルケが頭に手を当て、あきれた声を出す。 「『学院長のお使い』~!! ワルド様と一緒に~、用事あったんでしょ~!!」 「え、うそ?! やだ、もうこんな時間!」 ルイズが頭をさすりながら立ち上がる。 「え、なになに? またワルド様とのデートなの?」 モンモランシーが興味津々に近寄ってくる。 「でもこの前はデート終わってもなんか重ーい雰囲気だったけど、 ケンカでもしたの? それでもう仲直り?」 「だ、駄目だよモンモランシー! そんなにズバズバ聞いちゃ」 あまりにもあけすけな質問にギーシュがうろたえつつ間に入る。 だがルイズはギーシュの心配をよそに平然と答える。 「何よ、私はワルド様とケンカなんてしてないわよ。 でもまあ、仲直りって言えば仲直り、ね」 「? 誰とよ」 ルイズは少し考えてから、はにかむ様に笑った。 「『私の運命』と、よ」 その顔をみてシュレディンガーも満足げに微笑む。 「ふ~ん、、、魔法使をえるようになって、 ちょっとは自信が付いたみたいじゃない。 じゃあさ、、、」 ニヤケ顔でキュルケが近づいてくる。 「ワルド様のプロポーズに返事する決心も、付いた?」 「へ?」「うそ?」「それはそれは」「拍手。」 「わあ! おめでとう御座います、ルイズさん!」 みなの驚きと祝福の声の中、ルイズはキッとキュルケを睨むが キュルケはどこ拭く風とニヤけたままだ。 首を振りシュレディンガーに視線を向ける。 シュレディンガーは目を逸らし、口笛を吹き始めた。 がっき。 ルイズのアイアンクローが猫耳頭の後頭部に食い込む。 「みんなには内緒っつったでしょ! こんの 猫 畜 生 ~!!」 みしみし。 「いだだだだ! ギブ! ギブ!!」 「な~にいってんのよルイズ。 これから婚約しようってのに秘密にしてど~うすんのよ。 それとも、結婚してもずっとみんなに内緒にするつもり?」 「そ、、それは、、、」 「それで、なんてお返事するんですか? ルイズお姉さま」 ケティが目を輝かせて聞いてくる。 「魔法もまだ使いこなせない半人前ですしー、なーんて 言わないでしょうね、これだけ皆に付き合わせておいて」 モンモランシーがにやりと笑う。 「ああもう、いまさら言わないわよそんなこと」 ため息混じりに返す。 ルイズは皆を見回し、改まった顔で口を開く。 「あ、あのね、あのさ、、、モンモランシー。 それに、みんなも。 夏休みなのにわざわざ学院に残ってまで 私の特訓に付き合ってくれて、その、、アリガトね」 ルイズに似つかわしくないその素直な感謝の言葉に 思わずモンモランシーが赤面する。 「あ、あんたの為なんかじゃないんだからね!」 「で、出たあー! 掟破りの逆ツンデレ!」 「さすがですわモンモランシーお姉さま!」 「ま、ルイズの為じゃないってのは本当なんだけどね」 「はあ? それどういう意味よ、キュルケ」 水をさすキュルケにルイズが食って掛かる。 「いやだってホラ、明後日に日食あるじゃない、日食。 で、タルブが一番綺麗に見れるらしいのよ。 それでシエスタの故郷がタルブだって言うからさ、 それじゃ見に行こうって事でみんなで学院に残ってたのよ。 特訓もその暇つぶしだからさ、柄にも無く恩に着ることないわよ」 しれっとした顔でキュルケが説明する。 「っていうかルイズ、あんたも誘おうかとも思ってたけどさ~、 アンタはホラ、どうせワルド様とアルビオンで見るのかなって」 「あー、ヘンに誘って逃げ道作っちゃ悪いわよねえ」 「逃げないわよ!」 ルイズはシュレディンガーの頭を引き寄せると、 笑顔で見送る仲間達に堅い笑顔で答えた。 「じゃ、じゃあね、みんな。 行ってくるから!」 ============================== ぼすんっ。 ルイズが目の前に突然現れた何かにぶつかり、尻餅をつく。 「きゃっ?! ちょっと、気を付けなさいよ!」 眉をしかめ、シュレディンガーに怒りの声を上げた ルイズの目に、つば広の黒い羽帽子が飛び込んでくる。 その下には口髭も凛々しい精悍な、しかし優しい顔があった。 「おや、大丈夫だったかい?」 そう言いながらワルドはルイズに手を差し伸べた。 ワルドの顔を見て、ルイズの頭は真っ白に飛んだ。 そう言えばあんな気まずい別れ方をして、その後会ってもいない。 きちんと覚悟を決めた筈なのに、頭に何も浮かんでこない。 あ! 皆と特訓の後、お風呂にも入っていないじゃない! 大体なにをしにここに来たんだっけ? それと言うのもシュレディンガーがキュルケなんかに話すから! きちんと返事をしてから皆に言うつもりだったのに。 不意にキュルケの言葉が頭の中にリフレインする。 (結婚してもずっとみんなに内緒にするつもり?) 結婚。 「結婚、して下さい、、」 ワルドの手を握り返す。 「ええ、喜んで」 ワルドは優しく手を引き、ルイズを胸に抱きとめた。 ニューカッスルの風吹き抜ける中庭で、 夕日に伸びた二つの影は一つに重なった。 。。 ゚○゚ 「、、、って、違くて!」 「ええ? ち、違うの?!」 急に赤面するルイズに、ワルドが慌てふためく。 「いえ、違うくは無いんですけど、ももも、もっとこう! いろいろ用意してた言葉があったのに!」 「え~? もういーじゃーん」 「だああ! アンタは黙っときなさいよシュレ!」 ワルドの手を離れ、シュレディンガーの頭をはたく。 「それはそうだ。 それに、レディの口から言わせるべき言葉ではないな、子爵」 「わわっ、ででで殿下! いらしたんですか?!」 一部始終を見られた恥かしさから、ルイズの頭に血が上っていく。 そんなルイズにウェールズは優しく笑いかける。 「あいも変わらず元気そうで何より、大使殿」 「いや、まあ、はは、それもそうですね、殿下」 ワルドが襟元を正し、ルイズに向き直る。 「すまない、ルイズ。 僕から言うべきだった」 「で、でもあのワルド様!」 「『様』は、いらないよ、ルイズ」 「でもあのその、わ、ワルド、、私まだ魔法も全然だし」 「それでいいんだ」 「背も、、それに、その、む、胸も、まだこんなだし」 「それがいいんだ」 「? そ、それに、、、!」 「、、、ルイズ。 僕と結婚しよう」 ワルドの目を見つめ、ルイズは涙を浮かべ微笑んだ。 「、、はい、ワルド」 「よかったよかった。 そうと決まれば式の支度に取り掛かるか」 ウェールズの言葉にルイズは小首をかしげる。 「式、ですか?」 「そう、僕ら二人のね」 ワルドの言葉にルイズはようやく事態を理解する。 「式って、けけ、結婚式ですか?! そそ、そんな! まだ早、、!」 言いかけて、ルイズは湖でのワルドの言葉を思い出す。 「も、もしかして、貴族派がトリステインを狙ってるっていう、 あの時ワルドが言ってた事が現実に?!」 ルイズの言葉にワルドは小さく頷く。 「ルイズ、僕は今晩にはロサイスへ立たねばならない。 しかし、僕は必ず君の元へと戻ってくる。 だから、その約束を僕にさせておくれ。 始祖ブリミルの前で、永遠に消えぬ約束を」 「、、、」 真実を知るウェールズは黙して語らない。 「、、、分りました。 ワルド、、、絶対、無事に帰ってきてね」 「君のお望みとあらば」 「よかったな子爵。 では、礼拝堂で待っているよ」 「あ! わ、私もせめておフロに!」 歩み去るウェールズにルイズも付いて駆けてゆく。 ルイズに付いて行こうとするシュレディンガーを ワルドが引き止めた。 「おっとネコ君、式の前に男同士の話があるんだが、、、 付き合ってもらえないかな?」 。。 ゚○゚ 日の暮れたニューカッスルの礼拝堂。 始祖ブリミルの像が見下ろす祭壇の前に、三人の姿があった。 ワルドの任務の機密性をおもんばかり、ウェールズは 他の人間に式の事も知らせてはいない。 ウェールズから借り受けた新婦の証である純白のマントを 身にまとったルイズは、落着かなげに辺りを見回した。 「もう、またどっかで迷ってんのかしら、シュレの奴」 「ネコ君ならここには来ないよ」 心配げなルイズにワルドが優しく語りかける。 「神聖な儀式という事で、どうも遠慮したらしい。 控えの間で式が終わるまで待っているそうだ」 「ええ? あーもうあの猫耳頭! どーうせまた面倒そ~、とか退屈そ~、とか思って逃げたんだわ! ご主人様の一生に一度の晴れ舞台だってのに! 式が終わったらお仕置きだわ!!」 「まあまあルイズ、彼は彼なりに気を利かせてくれているんだよ」 「もう、ワルドったらシュレの性格知らないからそんな事言えるのよ」 「んんっ、そろそろ宜しいかな、ご両人」 婚姻の媒酌を務めるウェールズの声に、慌てて二人が向き直る。 ブリミル像の元、皇太子の礼服である明紫のマントに身を包んだ ウェ-ルズが、祭壇の前で高らかに告げた。 「では、式を始める」 「新郎、子爵ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。 汝は始祖ブリミルの名において、このものを敬い、愛し、 そして妻とすることを誓いますか」 ワルドは重々しく頷いて、杖を握った左手を胸の前に置いた。 「、、、誓います」 ウェールズは静かに笑って頷いた。 「宜しい」 「では、次に」 ウェールズの視線はルイズへと移る。 「新婦、ラ・ヴァリエール公爵三女、 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、、」 朗々と、ウェールズが誓いのための詔を読み上げる。 今が結婚式の最中だというのに、ルイズは思い返していた。 相手は憧れていた頼もしいワルド、二人の父が交わした結婚の約束。 幼い心の中、ぼんやりと想像していた未来。 それが今、現実のものになろうとしている。 級友と自国の姫君が睦み合うとんでもない状況で再会を果たしたあの日。 シュレディンガーと異世界を巡っていても一人待ち続けてくれたあの時。 鼻の下を伸ばした男共をよそに酒場で一人賢者の如く佇んでいたあの顔。 ロクな思い出が無いような気もするが、それもまた良し。 「新婦?」 ウェールズの声に、ルイズは慌てて顔を上げた。 「緊張しているのかね? 仕方が無い。 初めてのときは事が何であれ緊張するものだからね」 にっこりと笑ってウェールズは続けた。 「まあ、これは儀礼に過ぎぬが、儀礼にはそれをするだけの意味がある。 では繰り返そう。 汝は始祖ブリミルの名において、このものを敬い、愛し、 そして、夫とすることを、、誓いますか」 ルイズは溜まった思いを吐き出し、杖を握った手を胸の前に置いた。 「はい、、、はい、誓います!」 「宜しい。 では誓いの口づけを」 アルビオン皇太子と、始祖ブリミルとが見守る中、 二人の唇は今、静かに重なった。 くたり、とルイズがワルドの腕に倒れこむ。 「新婦? どうしたね? やはり緊張で?」 「いや失礼、ここからは大人の時間なのでね。 彼女には刺激が強すぎると思い、眠ってもらった」 胸の中にルイズを抱いて、ワルドが悠然と言い放つ。 「子爵? いったい何、を、、、?!」 ウェールズが自らの胸に突き立った魔法の光を見つめる。 「あなたが悪いのですよ、殿下」 ワルドはどこまでも優しい笑みを浮かべる。 しかしその笑みは今や、嘘に塗り固められていた。 「貴方があの時死んでさえいれば、 それで戦争は終わっていた」 ウェールズの胸に突き立った杖をこねる。 「お゛、、、ごおっ、、」 「その戦乱の元凶である貴方が言うに事欠いて、 『アルビオンに再び平和が戻ったその時には』などとはね! ははっ、とんだお笑い種だ」 ワルドが杖を引き抜くと、ウェールズの口から鮮血が溢れた。 胸に空いた穴から飛沫が散り、服を真紅に染めていく。 「きさ、、! レコン、キス、、、」 仰向けに倒れたウェールズが悪魔のごとく笑う影を見上げる。 「ああ、あの哀れな貴族派の連中ですか? 私は彼らのような夢想家ではありませんよ」 ワルドはルイズをゆっくりと祭壇の上に寝かせる。 「せっかく終幕も近いのにこのまま何も知らずに 舞台を降りるのも可哀想だ、せめてこの先の筋書きを 教えて差し上げましょう」 ワルドが芝居がかった口調で手をかざす。 「ロサイスの戦艦がダングルテールへ向かうと言ったがありゃ嘘だ。 艦隊は手薄なタルブを突いてラ・ロシェールを急襲。 そのまま演習中の二個師団が不在の王都へ西から攻め上る。 ロサイスを攻めるカトリック教徒達は、まあ返り討ちでしょうな。 そして、王都トリスタニアの東からはガリアが攻め入る手筈です」 「ガ、リア! 、、、だと、、そうか、き、貴様、、!」 「二国からの挟撃を受ければたとえ王都といえど一晩と持ちますまい。 死出の旅路を寂しがる事はございませんよ、殿下。 貴方が慕うあの姫君も、遠からず貴方の後を追いましょう」 「が、、、ま、、、」 「お別れです、殿下。 こう言っちゃなんですが、私は貴方が好きでしたよ」 ワルドは息絶えたウェ-ルズの手を取り、その指にはまった 始祖の秘宝、『風のルビー』を抜き取った。 「へ~、そ~いう事だったんだ~」 「!!」 場違いに陽気なその声にワルドは杖を構え振り向く。 そこには、いるはずも無い者の姿があった。 貫いたはずの胸には一滴の血の跡すら無く、 潰したはずの頭は悪戯っぽく笑みを浮かべる。 「どーして? って顔だね~。 君には言ってなかったっけ? ワルド。 僕はどこにでもいてどこにもいない。 だから、君が僕を殺しても」 猫が牙をむく。 「僕は、ここに、いる」 ゆっくりと、虚無の使い魔がワルドに近づく。 「僕はね~、怒っているんだよ」 眉を上げてうっすらと笑みを浮かべる猫は言う。 「別に君が僕の頭を吹っ飛ばそうが、 そこの可哀想な王子様の心臓を貫こうが、 僕にとってはそんな事はどーだっていーんだ」 シュレディンガーの中に、何かが渦巻き満ちていく。 今までに感じた事もない、名状しがたい感情が。 チリチリとしたものが、その胸の内を焦がしていく。 「だけど君はね」 ぎちり、と猫が牙を鳴らす。 「僕の ご主人様(ルイズ)を 裏切った」 ワルドは窓を開け放ち、二つの指輪を外に放る。 始祖の秘宝、『風のルビー』と『水のルビー』。 それを空中で咥えたグリフォンが空へ舞い上がり、 西のかなたへ飛び去っていく。 「、、、ほう、そうかね」 返事をしつつワルドは頭の中で考える。 まずは指輪さえ届ければ、自分達は後回しでも構うまい。 幸いこの城は浮遊大陸アルビオンの突端、 フライを使い地上へ降りれば後はどうとでもなる。 それよりも。 問題は目の前のこれだ。 幻術? 幻覚? さっき殺ったのはスキルニルか何かか? 超再生? 回復術? それとも、不死? 馬鹿馬鹿しい。 不死身などこの世に存在しない!! 何より確実な事は、やはりこの使い魔は危険だという事だ。 ルイズの心は手に入れた。 しかし、この目の前のこれは、人に懐かぬ『死神』だ。 ここで始末をつけねば禍根を残す。 ワルドは杖を握りなおした。 「では、、、どうするかね?」 祭壇で横たわるルイズからゆっくりと距離を取り、 礼拝堂の中央で二人は対峙する。 「どーするかって?」 シュレディンガーが腰の後ろに手を回す。 「こーする」 ズルリ、と黒い塊が手の中に現れる。 「それは、、、!」 ワルドには禍々しい輝きを放つその鉄塊に見覚えがあった。 スパイとしての信頼を得る為、自分がレコン・キスタから盗み出し トリステインへと持ち運んだものだ。 全長39cm、重量16kg、装弾数6発、専用弾13mm炸裂鉄鋼弾。 対化物戦闘用13mm拳銃『ジャッカル』 それが今、シュレディンガーの手にある。 ワルドは声を殺し低く笑う。 どんな能力を持っているか知らないが、戦闘に関しては ズブの素人であるらしい。 いくら威力があろうと、あんなものが当たるものか。 両手で銃を構えてもその足元はふらつき、 銃口を自分に向けるどころか水平に構えることさえ出来ない。 「はははっ、それでどこを狙うというんだい? そんなにフラフラしていては一生この私には当たらんよ!」 「へーそう?」 シュレディンガーはワルドの足元に銃口を向け、引き金を引いた。 礼拝堂を轟音が揺さぶった。 シュレディンガーは吹き飛び、壁に叩き付けられる。 そしてワルドは、天井に飾られたフレスコ画を眺めていた。 何が起こったのか、理解が追いつかない。 左手をまさぐったが、持っていたはずの杖が無い。 首を起こし目をやると、杖ごと手の平がどこかへ千切れ飛んでいた。 体を起こそうとすると、腹の中でゴリゴリと何かがこすれる音がする。 親指だけが残ったその左手の先には、大きくえぐれた床が見えた。 あの拳銃の放った弾丸は、莫大な運動エネルギーで礼拝堂の床石を 大きく穿ち、その破片をワルドの全身に撒き散らしていた。 ごぽり。 何かを言おうとしたワルドの口から、血の塊がこぼれ出る。 肋骨をぬい、肺の中にも石片が入り込んでいるのが感じ取れた。 もう下半身の感覚は無くなっている。 ゆっくりと意識の途絶えていくその頭を、誰かが持ち上げた。 「ワルド?! ワルド!!」 聞き覚えのあるその可愛らしい声が、悲痛な叫びを上げている。 「はは、ルイ、ズ、か、、」 ワルドは左手の残りでその髪を優しく撫でる。 「何が?! 何で?! しっかりワルド!! い、いま、てあ、手当てを、、!!」 自分の顔に降り注ぐ涙の暖かさだけが、 今のワルドに感じ取れるすべてだった。 「いいんだ、、ルイズ、、、 僕は、、もう、、、」 「駄目! 駄目!! ワルド!!」 「はは、、、そう、さ、、これが、末路だ、、、 裏切り者に、ふさわ、しい、、末路、だ、、」 「裏切り?! 何を言っているの? 喋っちゃ駄目、ワルド!!」 ルイズは自分のマントを剥ぎ取りワルドの腹に押し当てるが、 流れ出る血はその純白のマントをどろどろと赤く染めていく。 「で、も、、信じて、くれ、ルイズ、、、」 最早その目は空ろに開かれ何も映ってはいない。 「嘘だらけ、だった、、、僕の、人生の、中で、、、 君への、、想いだけ、は、、たった一つ、の、、、」 「、、、ワルド?」 それきりその口からは言葉も、呼吸も、こぼれ出ることは無かった。 「ん~、痛てて、、」 後ろから響いた声に、のろのろとルイズは振り返る。 そこには自分の使い魔が居た。 「あ! ルイズ、起きたんだ! 大丈夫?」 肋骨は折れ右手の指の殆どは捻じ曲がっていたが、 いつものように「無かった事」にする気はなぜか起きない。 手に持った巨大な銃の重みが今は誇らしかった。 ルイズの目にその銃が映る。 大きく穿たれた床の石畳と、自分の伴侶に突き立った無数の石片と。 あの日の光景が蘇る。 はじめてその銃を見た日。 トリステイン魔法学院の仲間達と。 そして、大きく穿たれた学院の壁と。 「、、、あなたが、撃ったの?」 まるで感情のこもっていない、低く澄んだ声。 「うん、そう! 僕がワルドをやっつけたんだ!」 胸を張りシュレディンガーが答える。 「シュレディンガー、、」 「どうしたの? ルイズ」 不安げに近づくシュレディンガーの足をルイズの声が止める。 「、、消えて」 その声には、いつもの傲慢さも強さもヒステリックさも無く、 水晶のように純粋な拒絶のみがあった。 「、、、ル、、?」 困惑し立ち尽くすシュレディンガーに、 ルイズは目を伏せたまま、ただ、告げた。 「消えて、シュレディンガー。 私の、目の、前から」 「、、、」 シュレディンガーは何かを言おうとして口を閉ざし、 それきり、ルイズの目の前から消えた。 ============================== 確率世界のヴァリエール - a Cat, in a Box - 第十三話 前ページ次ページ確率世界のヴァリエール